希望の旭
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南海に浮かぶ孤島―パプワ島。
12月31日、昼。
「おらっしゃぁあああ!!」
大木に貼り付けられた半紙の上に、巨大な筆を振り回すミヤギ。
やみくもに振り回しているようにみえるが、半紙には力強く、それでいて整った文字が浮かんでいく。
最後に筆の先を縦にすぅっと払うと、ギャラリーから歓声が上がった。
半紙の上には"謹賀新年"の文字が出来上がっていた。
「さすがミヤギさん、相変わらずの達筆ね〜」
「なんて書いてあるのかわからないけどステキ!」
「あったりめーだべ!字の上手さはガンマ団ナンバーワンだべ!」
オカマの鯛と雌雄同体カタツムリに褒められて自慢げに鼻をこするミヤギ。
彼が殺し屋だという事実を覚えている者は少ない。
「でも男は字が上手いだけじゃ駄目よねイトウちゃん」
「そうね、ミヤギさんってほんと顔と習字だけよね」
「ほっとけナマモノッ!!」
ミヤギが間髪いれずに突っ込む。しかし悲しいかな、事実である。
「おいおい、こいつの達筆を馬鹿にすんなよ」
「!シンタロー…」
「こいつが唯一他人に勝てる特技なんだから自慢くらいさせてやれよ」
「ふふふ…おめの優しさは尖ったナイフのようだべ…」
パプワハウスから出てきたシンタローは相変わらずの悪戯な笑顔でミヤギをからかうと、るるるーと涙を流すミヤギをスルーして出来上がった謹賀新年の文字を回収した。
丸めた半紙を両手に抱えると、お約束のように下半身に絡んでくるイトウとタンノに蹴りを入れパプワハウスに戻る。
用意していた表具に習字を貼り付ければ掛け軸の完成だ。
壁に飾って外に出たところで、玄関脇にいたトットリが声をかけてきた。
「シンタロー、こげな感じでどげだぁ?」
トットリはゆるく胡坐をかいて、門松を作っていた。
藁は丁寧に編みこまれ、装飾は南国の草花で華やかだった。トットリは手先が器用だ。
「お、いいじゃん。上出来上出来。できたら玄関に飾っといてくれよ」
「おーいシンタロー!獲ってきたぞォ〜」
シンタローが機嫌よく返事をしたところで、湖に続く林の方から彼を呼ぶ声が響いた。
シンタローに頼まれて魚獲りをしていたコージが帰って来たのだ。
「おー、サンキュ…」
「みてみぃ大漁じゃあ!」
ほれ、と背負った巨大魚たちをみせるコージに、シンタローは声を張り上げた。
「足の生えてねぇヤツって言っただろーが!」
「足かて食えるじゃろォ」
「調理する俺の身にもなれよッ」
グロテスクだ。足を食べるつもりはないが、削ぎ落とすこと自体がグロテスクだ。
コージは一仕事終えたようないい笑顔を浮かべている。
シンタローは仕方なしに巨大魚を受け取って、ビチビチ跳ねる魚たちをどう料理しようかと思案した。
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