優しい屋上
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空は青い。当たり前のことだ。
雲は白い。やっぱりいつものことだ。
風通しのいい屋上は今日も僕が一人きり。
これも当たり前のこと。
鍵は僕しか持っていないから。
イヤホンから流れる音楽は愉快で、そっと頬をなぜる風は心地よい。
ここにあるものはみんな優しい。
寝そべって空を仰げば、気持ちが晴れると思っていた。
けれど、いつまでたっても僕の心は空っぽのまま。
空の青も、雲の白も、僕の心を埋めてはくれない。
軽快なリズムの音楽も、暖かなそよ風でさえも。
ふと、僕の視界に影が映った。
日の光を手で遮ると、影は見なれた顔になった。
優しくて意地悪な幼なじみのいとこ。
シンちゃんが僕の顔を覗き込んでいた。
「やあ、シンちゃん」
「なにサボってんだよ」
「だって、なんかつまんないんだもん」
普段は勝手に授業を抜け出したりしないけど、今日はどうしても気分が乗らなかったんだ。
だけど先生に理由を言ってもわかってもらえないから誰にも言わずにここへ来た。
だって言えるわけないよ。
心にぽっかり穴が開いちゃってすかすかになっちゃったみたいなんです、なんて。
シンちゃんは黙って僕の隣に座った。
そういえば、シンちゃんはどうして僕がここにいるってわかったんだろう。
探しにくるだろうとは思ったけど。
だから鍵をさしたままにしておいたんだけど。
僕は寝そべったままシンちゃんを見上げる。
遠くでチャイムの音がした。
「シンちゃんは授業出なくていいの」
「んー…だって、なんかつまんねーから」
そう言って、にっと笑って見せた。
イタズラ好きのするその笑顔はいつ見ても憎たらしい。
シンちゃんの心も、どこかにいっちゃったんだろうか。
だから取り戻すためにここへきたのかな。
だったら、はやく心をみつけないと大変だ。
僕は平気だけど、シンちゃんは大変。
だってシンちゃんは明日から忙しくなるから。
時間はゆっくりと流れてゆく。
動かないようにみえた雲も、ちゃんと動いてるんだってわかるくらいの時間が流れた。
黙って空を仰ぐのにも飽きてしまった。
空はずっと青いままだもの。
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