ここからはじまる

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一月二日、午前08時57分。駐車場横。
「ククク…ほんま可愛らしなぁ」
アラシヤマは嫌味っぽく笑ってトットリを見やった。
幼い顔立ちの同僚は、若々しい青の長着に藍色の紋付羽織を着ていた。
今は正月で、ましてこれから初詣に行くのだから、決して可笑しい格好ではない。周りも皆着物だ。男も女も。
しかしアラシヤマはトットリの格好に違和感を感じずにはいられなかった。
ごく一般的な着物もこの同僚が着ると妙に"可愛らしく"みえるのだ。
それは小さい子どもが七五三などで着物を着てめかし込んだ姿と同じ印象で、今年24になろうという成人男性に対しては相応しくない形容なのだが、やはりトットリは"可愛らしい"。
(これは今日に限ったことではなく、日頃から軍服を着ても学生服のようだし、式典のときの正装などは結婚式にお呼ばれした中学生のように見える)

「髪もええ感じにセットしてもろたんやなぁ、余計おぼこうみえるわ」
「うっさい、それ以上いったら右のこめかみに穴あけてやるっちゃ」
トットリはアラシヤマを睨み付けたが、今のアラシヤマにはトットリの言動すべてが可笑しいらしく、渾身のすごみも彼の笑い声を高めるだけに終わった。

「あーあ…はよミヤギくんたち来んかなぁ。なして新年早々アラシヤマと二人にならんといけんのんだらぁか…」
「失礼なお人やわ。わてかてこんなひねたおこちゃまのお守りは御免どす、可愛ないし…いや、今日は可愛ええけど…!」
そういってアラシヤマはまたくつくつと笑い出した。
もう何を言ってもこっちがイラつくだけだと思い、トットリは口をつぐんだ。


09時02分。ぱらぱらと降っていた雪も止み、雲の合間から太陽が顔を出した。
「お、晴れてきたっちゃ」
約5分ぶりにトットリが声を出した。しかし同僚の反応がない。
隣をみると、アラシヤマは寝不足なのか腕組みをしたままうとうとしていた。
「ほんまにきさんは…」
「…あら、何?」
「なんでもあらせん」
「あ、そ」
そこで会話は終了し、アラシヤマはまたうとうとし始めた。



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