choke on kiss

(4/4)

頬を包む両手のひらの温度と、唇に触れる柔らかい感触。
それらをもう少し深く感じるために目を閉じた。彼の手は熱い。子どもの体温だ。
キスはただただ優しかった。トットリがこんなキスをするのは珍しい。

唇が離れると、何かを言いたげな瞳と目が合った。
不機嫌そうに皺を寄せた眉と、固く結ばれた唇。ただのしかめっ面のようだが、その表情には確かに別の感情が隠されていた。
アラシヤマは思わず頬に置かれた彼の手に自分の手を重ねた。

「これはお礼?」
「好きに受け取りんされ」

トットリは気まずそうに視線を逸らすと、重なった手を払いのけて頬を放した。
そしてまたチョーカーに手を伸ばす。
そこでやっと、アラシヤマは思い違いをしていたことに気が付いた。

彼はずっと、プレゼントを喜んでいたのだ。アラシヤマが用意してくれたことを、純粋に。
だからそれに気付いてもらえないことをもどかしがっていたのだ。
喜んだことを喜んでやらなかったことに、拗ねていたのだ。

悔しいのか恥ずかしいのか、彼はふくれっ面をしている。
思い通りの反応が得られないからといってむくれるのは子どもの理屈だ。
けれど煩わしく感じないのは、プレゼントを喜んでくれた事実がアラシヤマにとっても嬉しいことだからだろう。

「どういたしまして」

好きに受け取れと言われたので、キスの返事を言葉で返した。
トットリは一瞬だけ驚いた顔を見せたが、

「…うん」

と小さく頷いて、安心したように笑ってみせた。
それから手早くチョーカーを外して、そそくさと部屋を出て行った。
扉の閉まる音がやけに大きく聞こえた。


孤独を取り戻した部屋で、アラシヤマは一人考える。

もう二度と、あのチョーカーが彼の首に絡まることはないだろう。
親友にみつからない場所で永遠に眠り続けるだろう。
けれど、彼は喜んでくれたのだ。隠し事が増えるほど負担は大きくなると知っていて、それでも喜んでくれたのだ。

もし彼の親友が来年もこの日を留守にするなら、またプレゼントを用意しておいてやろう。
もしかしたら、彼も自分も、今年よりもっと素直になれるかも知れない。
"おめでとう"と言えば"ありがとう"と返って来る、そんな当たり前の幸せを共有できるかも知れない。

アラシヤマはそこまで考えて、また自嘲を含んだため息を漏らした。
希望と絶望と欲望が交じり合う、とても息苦しい夜だった。





end



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