優しい屋上

(3/3)

むっとした顔で見つめていると、シンちゃんは居心地悪そうに顔を背けた。
それから急にすくっと立ち上がって、まっすぐ僕を見て言った。


「俺以外の奴に泣き顔なんか見せるなって言ってんの!」


風がぴたっと止んだ。…気がした。

空は気味が悪いほど青くて、雲はいやになるほど白い。
それは当たり前のことなのに。


「…なんで」

「なんでも」

「意味わかんない」


イヤホンから流れる音楽が聞き苦しい。
僕らを包むあたたかい風はうっとうしい。

この感覚はなんだろう。
あんなに心地よかった屋上が、違和感だらけのへんてこな世界になっちゃった。


「…もういい。次会うときまでにその泣き虫なとこなおしとけよ」

「待ってよ」

「んだよ」

「餞別もらいにきたんでしょ?だったら約束をあげる」


ああ、そうか。わかったぞ。
この違和感の原因。

空が青すぎるんだ。


「約束ってなんだよ」

「あのね、もう泣かないよ」


雲は白すぎるし、音楽は愉快すぎるし
風は気持ちが良すぎるんだ。

この屋上は、優しすぎるんだ。


「約束するよ。シンちゃんが戻ってくるまで、泣かない」

「…俺が戻ったらどうすんだよ」

「シンちゃんの前だったら泣いてもいいんでしょ?」


にっこり笑って言うと、シンちゃんは驚いた顔をしていた。
風が僕らのあいだをすり抜けた。

それで納得したのか、シンちゃんが笑う。
いつもの意地悪な笑顔じゃなくて、僕が大好きな明るい笑顔。
どうやら約束は成立したらしい。


「じゃあな、グンマ」

「うん、またね」


ほんのちょっとのお別れ。気休めの約束。
だけど僕らには、それで十分。



空は当たり前のように青くて。
雲はいつものように白い。

耳障りの良い雑音と、和やかな春風。


シンちゃんがいなくなった屋上は、泣きたくなるほど優しくて。

いたたまれなくなって僕は駆け出した。





end



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