七夕1 | ナノ




「こんにちはー」
「涼華ちゃんじゃないの。いらっしゃい」

全ての授業が終わり、もう帰るだけになった時間。
むしむしとした空気の教室から逃げるように出て、慶さんの店に向かった。
店先には慶さんの従姉妹である瑞希さんだけがいた。
慶さんは所用で少し出ているらしい。
「あら、そういえば恭平君と陽菜ちゃんは?」
「あぁ、あの子らなら…」
今日は陽菜の部活がない日らしく一緒に帰ろうと思っていたのだけど、「ちょっと今日は…」といわれてしまった。
珍しく恭平も今日は都合が悪いみたいなので、こうして1人で来たのだけど。
「珍しい事もあるんだね」
柔らかい低音。
振り返ると先ほどまでいなかったこの店の店主がいた。
「そうですね。というか久しぶりですね慶さん」
「あぁそうだね、恭平君とは昨日会ったけど…おっと」
慶さんはうっかり、というような仕草で口に手を当てた。
「…?昨日恭平が来たんですか?」
「ん、いや、まぁちょっとね」
「あ、居たー!!」
噂をすればなんとやらか。
聞き慣れた間抜けな声がする方へ目を向けると緑色のなにか大きいものを担いだ幼なじみと何時通りのふわふわした笑みを浮かべた親友が此方へ向かっていた。