鳴き声は寂しく響く

 
 
前略

飼い主様



久し振りだね。

あんたたちといた頃は重たくて仕方なかった体も、

こっちじゃすごーく、軽い気がするよ。


今日はね、せっかく神様がアタシの言葉を文字にして、飼い主様のところへ届けてくれるっていうもんだから、

ちょっとだけ、お話ししたいと思うんだ。

聞いとくれよ。


幸せだったよ。

いっぱいいっぱい、可愛がってもらったから。

あの頃小さかった娘っこが成人する頃には、アタシは老いてしまってたっけね。

体が言うことをきかなくなって、食事もできず、

ただ人形のように、黙って時を過ごす日々。


悪くないかなって思えた。

飼い主様に、看取られて、

生まれ育った家で死ぬなら、アタシは文句ない人生だったと思える。

無論飼い主様も、そのつもりだと思ってた。


だけどある日、連れて行かれたのは……

薄暗くて狭い、檻の中だった。


「年を取ってしまって……。引き取ってもらえませんか」

「一週間で殺処分されてしまいますよ、良いんですか?」

「ええ、保健所で安楽死させてもらったほうがコイツも良いでしょう。よろしくお願いします」

そんなやり取りをして、あんたは去っていった。

アタシのほうを、一度も振り返ることなく。


何もわからないように思ってるかもしれないが、

動物はカンが働くんだ、いずれ死ぬのがわかってても、期限が決まってるのは恐ろしい。

昨日目の前にいた犬や猫が、どんどんいなくなっていく。

やがてアタシの番が来た。

怖くて鳴いてる奴らもいたが、アタシにはそんな気力はなかった。

すんごく苦しかったね。暗い箱の中に、ガス、充満して。いきなり死ねるもんじゃないんだ、ゆっくりと。

あれが『安楽死』なものかい。


出来るなら、飼い主様。
あんたの家で、自然に命が燃え尽きるまで、生きてたかったな。

アタシはもうあんな、苦しい思いはしたくないよ。あんただってそうだろ?誰だって、痛みなく死にたいんだ。

何も言わないから、

体が小さいから、

自分より知能が低いから、

それは傷付けて良い、
殺して良い理由になりうるかね?

よっく考えてほしい。

それだけだよ。


最後に、言っとくが、
アタシは、あんたたちと過ごした日々は、忘れないよ。

ありがとう。



草々

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