白い天使は飛んでった
前略
父さん・母さん
お元気ですか?
僕はあれから天国で、
10年の歳月を過ごしました。
言葉を持たない僕は無力で、
今、あなた方にこの手紙を読んでもらっていること、あの頃の僕は夢にも思っていないでしょう。
「子供なんか、産まなきゃ良かった」
そう言ったあなた方のことですから、この手紙も、ちゃんと読んでくれているかもわかりませんが、
天国で10年間働いたごほうびとして今回の手紙を書く機会を与えられたので、書きたいことを自由につづっていくことにします。
まず、お詫びをさせてください。
2人のところへ産まれてきて、ごめん。
ミルクが欲しいと毎晩泣いて、母さんを寝不足にさせたこと。
そのせいで体調を崩した母さんが、食事を作れず父さんと喧嘩になったこと。
全部、僕が悪いよね。
実は、僕が母さんのお腹に宿ったときから、外の声って聞こえてたんだよ。
誰も喜んでくれなかったし、母さんはいつも悲しそうだった。
だから、せめて僕が元気に産まれてこようって、そう思ったんだけど……。
失敗だね。
僕の大失敗。
ごめんなさい、風の噂で父さんと母さんは今、僕のせいで「犯罪者」と呼ばれていると聞きました。
僕のせいで。
次に、僕が喋れるようになって、どうしても伝えたかったこと。
すごく痛かった。
すごく苦しかった。
すごく、悲しかった。
タバコの火ってすごく熱いし、何度も何度も叩かれるのも、すごく痛いんだ。
「泣くんじゃねえ」って言ったって、この頃の僕は泣いて伝えるしか出来なかったんだよ?
「お腹空いた」も、「おしめ気持ち悪い」も全部泣くしかなかったんだ。
あの最後の時まで、僕はずうっと泣いてたけど、僕は、父さんや母さんが笑ってくれたら、
きっと、泣き止むことが出来たと思う。
僕は、父さんや母さんの笑った顔が見たかった。
ただ、それだけだよ。
最後に、ひとつだけ。
いろいろあったけど、僕は父さん母さんが大好きだよ。
だってたった2人きりの、僕の父さん母さんだもの。
もしも今、2人が僕のことを好きだと言ってくれるのなら、
2人を愛して、良いですか?
草々
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