恋する女の子のVICTORY


「ブヒャヒャヒャヒャッ」

「先輩にこういう事はあんまり言いたくないんですけどその笑い方はヤバいっすわ。あと失礼!」

「いやいやだってゲームのフレンドって…小学生かよ、ゲホッ、やべ笑いすぎて変なとこ入った」


私にとってはとんでもなく嬉しい出来事だったのに全く失礼である。部活が始まる前の時間に体育館に押しかけて嬉嬉として今日あったことの報告をすると、途端に黒尾先輩は馬鹿にするように笑い出したのだった。

孤爪くんはまだ部室で着替えていて来ていないとのことなので場所の移動はせずその場で報告をしていると、黒尾先輩の大きな声のせいで周りにいた先輩や後輩たちにも聞こえてしまっていたらしく「お前研磨のこと好きなのか」と驚いた顔を向けられた。黒尾先輩の大きな声のせいでって言ったけどやっぱり私も声大きかったかもしれない。全責任なすりつけてごめんね先輩。

私が研磨くんのことが好きなことが珍しいと思っているのかジロジロと視線を向けられる。慣れないその視線にソワソワもじもじしていると、笑顔のリエーフくんが楽しそうに声を上げた。


「研磨さん、ひそかさんみたいな派手な人あんまり好きじゃなさそうっすよね!」

「やめて!?いきなりそんな笑顔で現実を突きつけないで!?こう見えても心は繊細だから、マジで!」

「………昨日まであのグループで館だけは大人しいと思ってたけど、全然そんなことなかったわ」

「恋する乙女なので孤爪くんの前では静かにしてました」


夜久パイが「また研磨もドえらいのに好かれたなー」と腕を組みながら呟く。その横にいるリエーフくんが「うるさくなった今は乙女やめたんですか?」とか聞いてくるので、どっからどう見ても乙女だろ!と夜久パイ並の飛び蹴りをかました。でも「うわぁパンツ見えるっすよ!」と言いながら簡単に避けられてしまって悔しい。


「研磨より強ぇんじゃねーの」

「夜久さん!見てないで助けてくださいよ!」

「あれはお前が悪いだろ」

「そうだよリエーフくん、大人しく一発受けときな!」

「うおっ危ね!だからパンツ見えますって!ピンクの水玉!」

「おいなんで色と柄言った!?見えちゃってもそこは優しさで黙っててよ!!」

「えー!理不尽!!!」


言い合いというよりこれは最早喧嘩だ。ギャーギャーとそんなことをしていると、体育館の入り口からその様子を見ていたらしい孤爪くんたちが若干引いたような顔をしながらこちらへ向かってきた。


「何してるの…」

「こ、孤爪くん…!!!」

「パ…パン…………パ……」

「山本には刺激が強すぎたな」


ワナワナと震えて動かなくなった虎くんは無視して孤爪くんの前に駆け出すと、えっ何?というような困った顔を浮かべた彼はスッと私から視線を逸らした。その行動に多少のショックを受けつつも「今のは違うんです…!」と何が違うのか自分でもわからないような言い訳をする。完全にテンパっている。


「というか話聞いてた!?」

「うん」

「ど、どこから!?」

「…………ピンクの水玉あたり」

「パンツばれてる!!」


その前の孤爪くんが好き云々を聞かれてなくて良かったとは思いつつも、なかなかに恥ずかしい会話を聞かれていたというのも心苦しい。やっぱ孤爪くんの前だけじゃなくみんなの前で四六時中恋する乙女を心がけなきゃだめだな。いつどこでこういうことが起きるか分からないし!

私たちの会話を聞いていた黒尾先輩は私の後ろでお腹を抱えて笑っている。他人事だからってまったく酷い。今度差し入れと称して辛子入りのクッキーとか持っていこう。

「そろそろ部活始まる時間だよ」という海先輩の優しい声にみんなが振り返って、もうそんな時間かとみんな一斉に練習メニューの確認のために笑いすぎて涙を浮かべる黒尾先輩の元へと集まり始めた。

この先の時間は私はここにはいれないのでそそくさと退散しようとすると、それに気がついた黒尾先輩が「じゃーねー」と手を振ってくれる。それを合図にみんなも「気をつけて帰れよ」と声をかけてくれた。なんか今日1日でバレー部の人たちからすごく馬鹿にされてる感じがしたけど、それでもやっぱりみんないい人達だなぁと思った。


▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲


「ひそかって研磨のこと好きなん?」

「…………え!?」

「え?」

「な、なんでバレた?!?!」

「いやバレバレっしょあの態度は」


あれから数日。呆れながらこちらを見る我がグループの皆様。今日も派手なメイクを施して、くるくるに巻いた髪の毛をふわふわと揺らしている。


「いつからー?」

「…………えと、去年から」

「マジ?!知らなかったんだけどー!言ってくれればよかったのに!私らの仲じゃん!」

「そうだよ〜マイメンの恋は全力で応援するっつーの!」

「研磨も面白いやつだし!な!」


バシバシと背中を叩かれながら優しさを受け止める。みんなに好きだと告げたら今の孤爪くんとの関係が変わってしまうかもしれないとか思っててごめんと心の中で土下座した。


「まぁ変だとは思ってたんだよねー。ひそかも私らと同じくらいうるさいのに研磨の前だとすっごい静かなんだもん」

「それな」


可愛いとこあんじゃーん!とニヤニヤした笑みを一斉に向けられてあわあわしていると、教室に入ってきた孤爪くんを見つけたなおピが「来たぞひそかの王子様が!」と茶化しながら背中を押して去っていく。

王子様って、変な呼び方しないでよ恥ずかしいじゃん!たしかに王子様なんだけどさ!あと声でかいし!


「孤爪くんっ!!」

「えっと…うるさい。なに?」

「あっまたやっちゃったごめん」

「そういえば、倒せた?」

「まだ!いいところまでは行くんだけど、あともう少しっていうところでいっつもHPが無くなっちゃうんだよね」

「レベルの割に武器が弱かったから、新しいの買って強化した方がいいかも」

「そうか、武器の問題なのかー」


ほうほうと心にメモした研磨くんからのアドバイスを元に、早速その場でゲームを開き武器屋に行く。武器の強化といっても何を買ってどうすればいいんだろ?と疑問に思っていると、横からスッと伸びてきた手がポンポンと私の持つスマホを操作していった。


「館さんのキャラ的には、これが一番良いと思う。扱いやすいし」

「お〜」

「これ買って、それで武器レベル上げて」

「わかった!」


ありがとうとお礼を口にしながら横を向くと、思った以上に近い場所に孤爪くんの顔があった。ビックリして二人してバッと離れる。す、すごい!すごい近かった今!バレーボール1個分も距離がなかった!

ドッドッと周りに聞こえてしまうんじゃないかというくらいに激しく動く心臓を押さえつける。静まれ、静まれ心臓!そろそろともう一度ゆっくり孤爪くんの方を向くと、反対方向を向いて自分の席に座り直しながら「…ごめん」と危うく聞き逃してしまう程の小さな声で言われた。

ごめん、なんて言わなくてもいいんだよ。むしろ美味しい展開ありがとうございますって思ってる私の方こそ謝らなきゃいけないんだよ。いつもみたいに茶化して返事をしたいのに出来なかった。

男子の中では比較的長めな髪の間から見えた耳がわずかに赤くて、ギュッと鷲掴みにされた心臓が悲鳴をあげる。煩さを通り越して止まってしまうかと思った。

あー、ずるいなぁ。ヘナヘナと力が抜けていく体を支えることができずに机に突っ伏した。きっと私の顔も真っ赤に染まっているんだろう。ガラッと扉を開けて先生が教室に入ってきても、なかなか顔を上げることができなかった。




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