天満月奇譚


満月の夜には不思議な現象が起こるんだって。月が持つ巨大な引力は、満月によって最大まで引き上げられるらしいの。

離れた場所にいる運命の人と同時に満月を見た時、あなたと誰かを引き寄せるために不思議な力が働いてくれるという言い伝えが存在してる。

その方法がどんななのかは、実際になってみないと残念ながらわからない。祖母は気がついたら知らない土地で一人になっていたらしい。けど私は、土地は変わらないまま、周りの全てが動きを止めてしまう形で一人きりとなってしまった。

もしかしたら、あなたにもそんな機会が訪れるかもね。これを読んでいるということは、もう訪れているかもしれないね。


「何書いてんの?」

「手紙」

「手紙……誰に」

「未来の孫宛」

「ああ」


祖母も私も、一人だと思っていたけれど結局は一人ではなかったの。同じ状況に巻き込まれた人がもう一人。私にとってのおじいちゃんと、あなたにとってのおじいちゃん。


「気早いなあって思ったでしょ」

「でも大事だろそれ」


どんな環境にあなたが身を置いているかはわからないけど、そこから抜け出す方法はただ一つ。一緒にいる人と満月を見上げること。もしもその日が曇ってたり雨が降って見られないと、またその次の満月まで戻れないから注意してね。私たちはそれで最初の満月の日には元に戻れなくて大変でした。


「もしも俺たちで最後だったとしたら、この手紙だけが発見されて由佳の気がおかしくなってたって思われて終わるかも」

「えー、大変だから全然私たちが最後でもいいけど、そう思われるのは嫌だなあ。勝手に連名にしとこ、ここに名前よろしく」

「書かないよ」

「じゃあ勝手に書いとく」


そうだ、さっきは運命の人なんてそのまま書いちゃったけど、一緒にいる人がそうかどうかは自分でしっかり考えて判断してほしい。


「そういえば予定日の五日前が満月らしいよ」

「そうなんだー。全然気にしてなかったよ」

「その日にってこと十分ありえるなと思って気が気じゃないんだけどこっちは」

「早い、あと二ヶ月もあるよ」

「もう二ヶ月しかないだろ」


勝手なこと言うなって思われたらごめんなさい。でも言わせてね。辛いこともたくさんあると思うけど、全てが嫌なことでは決してないと思う。

そして、元に戻ったら今までの全ては消えてしまうし、当然他の人も覚えてないから、自分たちの身に起こった出来事は絶対に二人が忘れないでいてね。


「ねー、倫太郎のサイン、シンプルに見えてすごい難しい」

「え……何でそのサインにしたのおかしいだろ。書くならせめて普通に名前書いてよ」

「だって、こっちの方がかっこいいじゃん」

「手紙にいきなりサインするやついる?やばいでしょ」

「えー?」

「笑ってないで書き直せって」

「いいよこれで」

「よくないだろ」


私たちも、二人が無事に元に戻れることを願っています。




 

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