2012年8月4日
「海外って、どこだ」
「アルゼンチン。日本の裏側!」
「変なもん食って体壊すんじゃねぇぞ」
「……え、それだけ?もっと会えなくて寂しー!とか、及川さんと離れ離れイヤーとか思わないの!?」
「ンなこと思うかよキメェ」
「ひどっ!!!」
幼い頃からずっと一緒だったのに。もう少しくらい悲しんでくれても良いじゃんかとも思う。けれどいつもと変わらずにそうやって「お前が行くって決めたんだろ」とケロッとした顔をしながら当たり前のように受け入れてくれる岩ちゃんにちょっと安心した。
俺のバレーを一番近くで見てた人だ。カッコ悪いところも、悲しいも悔しいも苦しいも、楽しいも面白いも、全部。常にお互いを隣で見てきて共有してきたからこそ、俺がやると決めたらもう何を言っても無駄だと言うことも、いずれこうなるってことも予想してたんだろう。
幼馴染ではあるけど友達ではない。俺たちを結ぶものは友情なんてそんな生ぬるいものではなくて、もっと汗臭い腐れ縁だ。
馬鹿みたいにまっすぐに正直な事しか言えない岩ちゃんは、笑うことも戸惑うことも否定をすることもなく、俺たちが今まで共に歩んできた一本の道を外れ別々の道を歩いて行くことを受け入れ送り出した。
「まぁまだ半年以上あるしな。今はまず春高だろ」
そう言って前を見た岩ちゃんと同じ方向を向いた。足元にはまっすぐに伸びた影が二つ並んでいる。
「っしゃー!頑張ろうね岩ちゃん!」
「そういえば高杉にはこのこと言ったのか」
「……言ってない」
「早く伝えてやれよ」
「それはわかってるんだけどねぇ〜……」
「どうせまたクソみてなことで悩んでんだろ」
「ハァー!?ちょっとなにその言い方!?クソじゃないし!!超大事な事だし!!」
夕陽が辺りを照らして視界がオレンジ色に染まる。その強い光に目を細めた。
一歩一歩、大切に踏みしめながら残りわずかな同じ道を二人並んで歩いた、高校三年生のとある夏の日のこと。