「久しぶり、ファン感またスベり倒したんだって?」
「アホ!どっかんどっかん笑っとったわ!!」
「嘘だよ、Twitterで検索したらファンが言ってた」
「誰やそんな冷たいファン信じられん!!」
連休が開けてからは本格的にきみも忙しそうで、帰れば疲れきった様子で床に伸びているか、一心不乱に作品のことを考えているかのどちらかだ。ここ数日は作品に集中したい期っぽくて家でもひたすら向き合っているようだった。
芸術のことは全然分からないから、キャンパスに向かっていない時でもそんなに考え込むようなものなのかと疑問に思うこともある。でも俺もバレーボールに触れていなくても家で考え込んでる時期とかあるし、自分を追い込んだり、集中したい期間ってあるよな。
俺の存在が邪魔だとは思われてないと思うけど、なるべく今は1人にさせてあげた方がいいかもしれないなと思っていたところに侑から連絡が来た。侑もたまには空気が読める。
「俺がスベった話はどうでもええねん」
「やっぱスベったんじゃん」
「スベってへん言うとるやろ!ボケ!」
えー今自分で言ったじゃん。と目を細めて侑を見ると、その顔ほんまにムカつくからやめろと声が飛んでくる。相変わらず失礼なやつだな。
「いつもみたいな惚気け話はしなくてええんか」
「していいの?いつも怒るじゃん」
「誰が好き好んで元チームメイトの惚気け聞かなあかんねん」
「今はトモダチでしょ」
「さぶいぼ立つわやめぇや」
「まぁ彼女ができない侑には酷な話かもね、ごめんね配慮できなくて」
お前人が話聞こうとしてやっとんのに何でそうなん!?と相変わらずギャーギャーとうるさい。そんなにうるさいから彼女出来ないんじゃない?モテるはずなのに残念な男だ。
「バレーの実業団ってぶっちゃけどのくらい貰えるの」
「生々しい話やな。普通の会社員よりちょい多い程度ちゃうん?みんなが思てるよりは少ないと思うで」
「やっぱ?」
「まぁ俺んとことお前んとこが完全に一緒なわけじゃないから何とも言えんけどな」
「でも人1人くらい養えるっしょ?」
「え、それは、まぁ、全然できるけど」
じゃあいいや。頼んでた2杯目のドリンクが到着して、そのままグイッとあおろうとすると「待て待て」と顔の前で手を振られて邪魔をされる。
「なに」
「なにじゃないわアホ!ついに結婚するんか!?」
「残念ながらまだだよ、学生だし」
「何やビックリしたわ」
結婚する時は言うてな。とホッと胸を撫で下ろす侑に、俺よりも治の方が先じゃないの言えばウジ虫を潰したような顔をしながら「先越されるとか有り得ん」と返事が返ってくる。
彼女もいないのにどの口が言ってんだろ。と思いながらつまみを食っているとお前の考えてること丸わかりやぞ、失礼なやつやなほんま。と勝手にキレだした。俺まだ何も言ってねぇのに。
「きみは自分の将来性の不安定さに心まで持ってかれちゃうとこがあるから」
「ふーん」
「興味無さそうじゃん」
「ないわアホ」
酒のつまみにもならんわと枝豆を口に放る侑はハァと溜息をつきながらスマホを確認する。もう22:00やん、平気なんか?と聞かれて何が?と最初は思ったけど、少し時間が経ってあぁと納得した。
「今日は平気」
「いつもはこの時間には帰るのに珍しい」
「今日はちょっと1人にさせてあげたくて」
「根詰めとるんか」
「うん」
「ご理解のある優しい彼氏気取りおって」
「気取ってないよ、事実じゃん」
「ケッ」
キモいわと言いながら向かい側に座る俺をパシャリと一枚撮ってスマホを操作している。俺の写真と共に『#角名のアホ』という何とも幼稚なハッシュタグをつけられて上がった侑の最新ツイートには早くも数件のいいねが来ている。一般人を名前付きで載せるのほんとやめてほしい。俺も勝手に載せとこ。ハッシュタグは#性格ポンコツ。
「早よきみちゃんの顔見せろや」
「やだよ」
「何でやねん、話だけ聞いとって顔まだ1度も見た事ないんやぞ」
『アホめ!!』とのコメント付きで先程の俺のツイートを引用リツイートされれば、瞬く間に数件のいいねとリツイート通知が来る。一般人を引リツすんな。アホはどっちだ。
「彼女いないやつには見せたくない」
「喧嘩売っとるんか」
「好きになられたら面倒じゃん」
「まぁ俺もイケメンやからな、スマン」
「違うよ侑がだよ」
「はぁ!?絶対好きになんてならんわ!」
「…………」
「エッなんでそこで不機嫌なるん?一番面倒くさいの確実お前やん気持ち悪っ!」
あーもーホンマ嫌やわ高校時代の俺に今の角名見せたくないわ〜と泣き真似をしながらジョッキを空にする侑は、随分としょぼくれた顔をしていた。イケメンが台無しでウケる。
でもまぁ悔しいけど侑はイケメンだとは思う。ただそれを相殺するくらいに性格がポンコツなだけ。でもそんな所も含めてお前のことを選んでくれる人が出来るだろうって思ってるから、彼女いないのを今はバカにはするけど深刻には捉えない。
きみは侑に会っても乗り換えることなんてしないだろう。そんなこと絶対させねぇし。こいつも何やかんやで良い奴だから、きみのこと無理やりどうこうしようとか、人が本気で好きになった相手を奪うとかどうにかしてやろうなんて多分考えないと思う。
別に本気で心配しているわけでも、警戒している訳でもない。
じゃあなんで会わせないのかと言われれば、ただ揶揄ってるだけ。俺も大概性格悪いな、なんて自覚しながらジョッキの残りを空にした。
侑ときみが初めて対面する時は何時になるんだろう。
それはちょっとした俺の楽しみ。
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