共に生きる


「死ぬよりも生きることのほうが難しいんだなって、この仕事に就いてからよく考えるよ」 


ゆらりゆらりと昇って行く。彼の唇から切な気に吐き出される煙が消えゆく様を見届ける。ぽつりと独り言を零すようにそう言った彼の声に俯いていた頭を上げた。静かで少し重そうな瞳がこちらへ向いて私のことをゆっくりと見下ろす。読めない彼の表情から思わず目を逸らした。

凍てついた冬から氷を溶かす春へと変わる季節の狭間。もう空気はだいぶ暖かいのに、肌を撫でる風はまだまだ冷たい。抱え込んだ自分の膝の体温がやけに熱く感じた。


「松川さんもそんなこと考えるんですね」

「そりゃね」

「私は、たまにどうすれば良いのかわからなくなります」

「考えすぎは体にも精神的にも悪いよ」


死は誰にでも訪れるのに、そこに至るまでの過程は人それぞれ。どう死にたいかを考えた時、どう生きれば良いかが決まってくる。なんて言うけれど、そんなことを考えながら生きている人はそんなに多くはないと思う。生きることのほうが難しいという彼の言葉を、もう一度心の中で繰り返した。


「死ぬ時は一人なのに、どうして一人では生きられないんでしょうね」


私の言葉に軽くフッと息を吐きながら彼が笑った。それと同時に吐き出された煙がまた天へと昇っていく。ゆらゆらと漂うその煙は、不安定に揺れていつの間にかどこかへと消えていった。


「どうしてだろうね」


続けて煙ではなく低くて落ち着いた言葉が同じ場所から吐き出された。その音は、私の耳によく馴染む。優しくて苦い彼の声は、理由もなく安心感をもたらして、私の全てを包み込んだ。


「その答えを探すために、これから一緒に生きてみる?」


スッと目線だけで見下ろされ、僅かに上がった片側の口角は、私がそっと頷いたことでさらにその角度が増した。細められた瞳に吸い込まれるように顔を上げる。視界の隅では彼の手元にある煙草の煙が、真っすぐと立ち上って柔らかく薄れていった。


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