記念日を覚えていた気がする


今日は何の日でしょう。お互いに忙しい一日を終えリラックスした時間を二人で過ごす夜。ソファに座り二人並んでぼーっとテレビを見ていた時に、突然倫太郎に話を振ってみた。

肌触りの良い最近買ったタオル素材の人気のパジャマの感触を気に入ったのか、さわさわとずっと私の肩を撫でていた倫太郎が、え?と言うような顔をしてこちらを見る。


「今日は何の日でしょう」

「え、なにいきなり。映画の日?」

「そうなんだけどそうじゃなくて、私たちのこと」

「……これ答えられなきゃ怒られるやつ?」

「さぁどうでしょう」


やべ、わかんねぇ、つか面倒くせぇ。口には出してないけどわかりやすくそんな顔をする。倫太郎は私から視線を逸らし、「さっきまで覚えてたような気がしなくもない」なんてボソボソと早口にそう答えた。


「嘘だね」

「嘘じゃないよ」

「嘘だよ絶対」

「ちげぇって」

「じゃあ今日は何の日か、わかる?」

「あー……待って真剣に考える」


ソファの背もたれに背中を預けて天井を見つめる倫太郎は、だらしなく口を開きながら「記念日は冬だろ、月記念日的なのでもないじゃん、100日も1000日でもねぇしな……クソ」なんてぶつぶつと言っている。

数分経過した後、「わかんないです」といつも通りの抑揚のない声で、若干気まずそうな顔をしながら降参とばかりに両手を上げた。


「……っ………ぁはははっ」

「は?」

「やばい、どうしよう、笑える」

「え、なに」


倫太郎に倒れ込むようにしながらお腹を抱えて肩を震わせる。彼はしっかりと私の背中に片腕を回し、体を支えながら「ねぇちょっと、一人で笑ってんな」と不機嫌そうな声を出した。


「ごめんね今日は何の日でもないよ」

「はぁ?そんな気がしたけど、なんなんだよもう」

「さっきまで覚えてたんじゃないの?……ぶふっ」

「おいふざけんな」

「嘘じゃないよって言ってたじゃん…!」


笑いが止まらずグリグリと倫太郎の肩に額を押し付けるように首を動かすと、空いてる方の片手で恥ずかしそうに顔を覆った彼が「性格ワリィ……」と小さな声で吐き捨てる。


「ごめんね。倫太郎が可哀想だから記念日設定しよ」

「なにそれ適当すぎでしょ」

「倫太郎が無い記念日を覚えてた気がした記念日」

「最悪」


後頭部をガシッと掴まれぎゅーっと強く押しつけられる。頭を動かせなくなったので両手を使って反抗しようと試みると、それを察した倫太郎は素早い動きで両腕を背中へと回して、私が完全に身動きが取れなくなるように蛇のように強く抱き締めた。


「動けない」

「動けなくしてるからね」


かぶりつくようにパクッと唇に食らいついた倫太郎が体重をかけてきて背中が大きく反れる。落ちないようにしっかりと支えられながら、キツい体制のまま何回も交わされるそれに顔を歪めつつ薄らと目を開くと、厭らしく目を細め楽しそうな顔をした倫太郎と至近距離で視線が絡み合った。


「背中痛い〜その目もむかつく〜」

「俺の方がムカついてるからね」

「お互いにムカついた記念日」

「それも最悪じゃん」

「じゃあもっと可愛いの考えて」

「無理無理」


反れて落ちそうになっていた私の腰を掴み、グッと引き寄せ再度密着させた倫太郎が、倒れかかる私の背中を軽く擦りながら、お気に入りらしいタオル生地の肌触りを再度楽しみ始める。

さっき見ていたバラエティ番組は終わってしまったようで、いつの間にか知らないドラマに切り替わっていた。

それをBGMにしながら、ぽそっと小さな声で「今日も倫太郎が好き記念日」なんて言ってみたら、彼は数秒黙り込んだあと「可愛いとは思うけど明日槍とか降りそうじゃない?」なんてふざけたことを言うのでまたムカッとした。


「じゃあやっぱり倫太郎が無い記念日を覚えてた気がした記念日に戻す」

「マジ最悪。ちゃんと可愛いからさっきのにして」

「今からの倫太郎次第ですね」

「言ったな」


こんな風にくだらない記念日を勝手に増やして、いつか一年中が何かの記念日で埋まるようになればいいな、なんて、とってもくだらないことを考えた。


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