雷乃発声


汗で冷えた体をぶるりと震わせる。昼間は随分と暖かくなったが朝夕はまだまだ冷える季節。キツい練習の後に体育館の外を覗けばしとしとと雨が降っていた。

ついてないな。今日は雨の予報ではなかったから傘は持っていない。暗い鼠色の空を見上げてため息をつくと、「赤葦くん」とここにいるはずがない人物が俺を呼ぶ声がした。


「傘、持ってる?」

「コウ?なんで」

「ちょうど進路のことで先生に相談があったから来てたの」


ひんやりと冷えた空気に晒された手に触れる。想像以上の冷たさに目を開く。「ごめん、すぐ着替えてくるから校舎の中で待ってて」とすぐさま背を向け部室へと駆け出した。

コウを家まで送って、そのまま傘を借りて帰ろう。あぁ、急ぎすぎてお礼を言うのを忘れてしまった。戻ったら先ずそれを伝えないといけない。

遠くでゴロゴロと小さく雷が鳴り始めた。このままじゃ雨も次第に強くなるかもしれない。本当ならもっと小雨の時に帰れたはずなのに、この時間まで俺を待っていてくれた彼女に感謝をすると共に、会えるとは思ってなかった今日も彼女の姿が見れたことに口元が緩んだ。

雷乃発声

(かみなりすなわちこえをはっす)
遠くで雷の音がし始める
三月三十日〜四月四日

  

 
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