桜始開
ひらひらと舞い落ちる花びらを掴もうと手を伸ばすと、その手を躱すように揺れ落ちていってしまって思うように掴めない。そんな俺を見ながら笑ったコウは手のひらで皿を作るようにして、踊るように降りてくるそれをふわっと丁寧に掬った。
「さすがだね」
「赤葦くん、そのままでいてね」
なに?と俺が聞くよりも先に動き出したコウがそっと近づいてきて、手を伸ばして俺の髪の毛に触れた。背伸びをしながら、「ついてる」と指先で摘んだ花びらを楽しそうにこちらへ見せる彼女の手首を掴んで、その花びらに口付ける。そのままそれを静かに見ていたコウの唇にも同じようにそっと触れた。ぽっと色付いた彼女の頬が背景と同化して、優しい世界にそっと溶け込む。
桜色の絨毯の上に立った彼女が優しく微笑んだ。その笑顔を色に例えるならば、彼女の周りを彩るそれと全く同じ色だ。
桜始開
(さくらはじめてさく)桜の花が咲き始める
三月二十五日〜三月二十九日