桃始笑


ふわりと舞った風が頬を撫でた。そのひやりとした冷たさが心地よく感じるくらいに暖かくなってきた春の初め。じんわりと心地よい熱を放つ指先がピクっと動いて、クッと弱い力で引き寄せられる。


「どうかした?」

「あれ見て」

「あぁ、この前まで蕾だったのにね」


名前の通りに綺麗な桃色で空間を彩った桃の花が可憐に咲き誇っていた。コウは「可愛い」と空いている方の手でスマホを取り出してカシャカシャと器用に写真を撮り、「見て見て」と言いながら嬉しそうにスマホの画面をこちらへと差し出してくる。

今ここで同じものを一緒に見ているのに、上手く撮れたと写真でさえも共有してくれるのがなんだか嬉しい。

些細な幸せ。その小さな一つ一つの蕾をこうやって咲かせて一緒に愛でていきたい。

桃始笑

(ももはじめてさく)
桃の花が咲き始める
三月十日〜三月十四日

  

 
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