半夏生


赤葦くん、と小さな声で俺の名前を呼ぼうとした彼女を制するように唇を被せる。

夏の暑さを忘れさせる涼やかな室内。駅前から少し離れた場所にある図書館はこの時間だと人がまばらだ。元々人があまり来ない専門的な小難しい分厚い本が立ち並ぶ棚の横にひっそりとあるこのスペースは、ちょっとした隠れ家のようだった。

横並びに座って教科書とノートを開いて、明日に備える。今日から始まった期末テストのために部活もなく、午前中で学校が終わるために夕方の塾まで時間に余裕のあるコウとここで勉強をしていた。


「……もう少し、合図してよ」

「これからキスするよって言えばいい?」

「そうじゃなくてっ」


ヒソヒソと声を潜めながら顔を覆うコウは、怒っているわけではなくて照れているだけだ。もう彼女の反応は手に取るようにわかる。

いくら人がいないからといってこういう場所でキスやハグをすることを彼女は過剰に恥ずかしがる。俺だっていつでもどこでも出来ればいいってものではないし、ちゃんとTPOはわきまえているけれど、これだけ近くに人がいなくて、ここ最近しばらく二人きりになる時間が取れなかったのもあってついつい我慢が効かなくなった。


「もう一回していい?」

「……っ」

「ダメかな」

「い、いちいち聞かなくていいから」


顔を真っ赤にする彼女に喉を鳴らして笑うと、わざと揶揄ってるでしょとさらに恥ずかしそうにする。図書館では静かにしなきゃだよ、と言いながらもう一度その口を塞いだ。

テスト勉強の合間の息抜き。こんなに幸せな時間が過ごせるのなら、これからずっと毎日がテスト期間でも構わないな。

半夏生

(はんげしょうず)
からすびしゃくが生える
七月二日〜七月六日

  

 
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