草木萌動


小銭を出し合って買った一本のペットボトルを二人で飲み回しながら、まだ若干春の気候には届かない澄んだ水色の空を見上げた。


「今日はいつもより少し寒いねぇ」

「もう少し暖かくなったらどこか行こうよ」

「そうしようか。どこがいいかな」


感情の起伏の少ない俺たちだから、二人で話しているのを聞いた彼女の友達が、たまに「あんたたちそれでお互い心開けてるの?」と聞いてきたりするけれど、むしろ心を開いているから無理に相手に合わせようとはせずに自分の素でいられるんだと思う。そのテンションがたまたま同じだっただけ。

去年のこの時期はまだコウと付き合い始めたばかりで、お互いにまだ気を張っていた部分も沢山あったと思う。この一年間、ゆっくりと時間をかけてその壁を溶かしてきた。


「見て、菜の花が咲いてる」

「ほんとだ。美味しそう」

「そうやってすぐ食べようとするんだから。そろそろ色んな花が咲いてくるなぁ」


寂しそうに冬を越していた木々の先には小さな膨らみが見える。大きく真ん丸に膨れ上がったそれは今にでも破裂しそうだ。

その蕾が開くまで、あともう少し。

草木萌動

(そうもくめばえいずる)
草木が芽吹き始める
二月二十八日〜三月四日

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