道を云はず:天童

後書き




道を云わず、お読みくださりありがとうございます。白鳥沢キャラでは初めての連載でした。2021年の2月14日バレンタインから連載をスタートさせて、一ヶ月後の3月14日ホワイトデーに番外編3つを含めた全10話を載せ終えるという一ヶ月の短期連載でした。

まずはタイトルについて。「道を云はず 後を思はず 名を問はず ここに恋ひ恋ふ 君と我と見る」与謝野晶子の歌です。ちなみに同じ白鳥沢で連載のある瀬見くんのタイトル短歌も与謝野晶子作です。世の中の堅苦しい道徳も気にしないし、これから先どうなるかも知ったこっちゃないし、人の噂も気にぜず後ろ指を刺されても別に構いません。今ここにこうしてお互いを恋い恋う私とあなたがいればそれでいいのです。……すんごいわかりやすく超訳してますがそんな感じ。実は不倫の歌なんですけど、歌だけ見ると、もう周りは見る気もないし合わせる気もないしって感じの自分達の世界放り込んでて熱も圧も凄いなっていう感じです。天童くんのバレーを考えるとこれだなって思ってこの歌を使いました。

それまで白鳥沢のキャラを日記とかでも匂わせたことがなかったので、一話目を載せた時に「天童くんがくるとは思わなかった」と驚きのコメントをいただいたことも今はとても懐かしいです。

当初はなるべく読みやすく、なるべく一気読みできるように一話一話の文字数を少なくと意識して書いていました。なので私にしてはかなり地の文を抑えて書いていたんですけど、せっかくパリという素敵な街にいて、ショコラティエという他のキャラクターではあまり描けない個性ある職業の天童くんだからこその要素がたくさんあるのにもったいない事をしたなと、載せてからずーーーっと悶々としてしまいまして、約一年後の本日、全てのお話にかなりの加筆修正を加えもう一度載せさせていただきました。

天童くんのあの考え方、物事の捉え方、人との関わり方。それがあったからこその白鳥沢での過ごし方、チームに対しての想い。もうめちゃくちゃ好きで!!天童くんがパリにいると知った時、そこでも彼は彼なりの楽園を見つけていると嬉しい。なんて考えてしまって、このお話を書きました。

なので女の子は天童くんよりも天童くんのチョコレートを好きだということにしました。彼の癖のある性格をわかっていてもそのバレーの腕を買った白鳥沢のように、まずはチョコから入る。それは一番最初から決めていた事です。そして後から本人を好きになっても彼が作ることに対しての興味と意味を見失わない子。天童くんと喋らせてたら性格はあんな感じに書いているうちに勝手になってた。

書いていて楽しかったのは、ホワイトデーの話です。天童くんとのやりとりも、その紅茶を飲んで味を把握してからそれに合うチョコを選んでくれる天童くんも、天童くんのチョコ好きって考えまくってるヒロインも自分なりにお気に入りです。だからその話を加筆修正するとき、その「天童くんのチョコ」をもっともっと特別なものだと思えるようにしなきゃならないってものすごく考えました。

そこで拘ったのはパリの描写です。加筆修正時に全話通してかなりここを増やしたと思います。天童くんを引き立てるために幻想的にパリを描きたい!って思ってて、それがどれだけ成功しているか、失敗しているかは自分ではわからないですけど、とにかくそれを加えました。建物や道に関してだけではなくて、色を加えることも個人的に気をつけてます。街灯で照らされた石畳のブラウンだとか、夕日に揺れるオレンジのセーヌ川とか。ヒロインにとっては憧れの街なので、どれだけ素敵な土地に思えるように書けるかって一応考えました。そこがこだわりでもあり、難しかったところでもあります。加筆修正前、ノートにかなり自分なりのパリのイメージ、それを表せるような言葉、あとパリに旅行に行ったことがあるので当時の写真とかを見返して街並みがどんなかを思い返して、そしてパリを舞台にしたりその地が出てくる映画を見返したり検索したり、ネットであっちで暮らしている人のブログとか読み漁ってどんな感じかをノートにまとめました。アナログな人間です。

あと入れたかったのは番外編3の「俺を見上げてくる晶子ちゃんを見下ろす。身体の芯が疼いた。ぞわぞわと這うように全身に甘い電流が伝って口許が緩む。相手の渾身の一発を弾き落とした時、コートに膝をついて苦しげな顔で俺を見上げてくるやつを見た時にも同じようなことを感じた。」の所。178話の天童くんの過去、考え方が特にわかるこの回は個人的に絶対に外せなくて、あの悔しそうに見上げてくるスパイカーたちに向ける大コマのあの表情が印象強いので入れた描写。その後にヒロインに言ってる「勘」まで含め、どうやってそのセリフやら描写やらを入れつつヒロインとの話にするかをすごく悩んだ。そこに自分なりに拘りました。

あと、これ小説表紙ページの話なんですけど、「Chocolaterie Satori Tendo. 75004 Paris,France」って書いてあります。ショコラトリー サトリ テンドウはわかると思うんですけど、75004 Paris,Franceって何?ってなる方も多いと思います。個人的に、天童くんが出店するならマレという地区がいいなっていう本当に勝手な気持ちがあります。マレは、日本で言う東京青山みたいな、細い道にたくさんのショップがあって、個人経営のブティックやパティスリー、カフェが並んで、ちょっと良い感じの通り。でも行き辛さはないんです。気軽に歩けるお洒落な地区です。そのマレ地区の、郵便番号のようなものが75004。「75004 Paris,France」は住所表記です。ストリートビューでマレ地区歩いてみてください。私もこれ書く前にすごい歩きました、ネットで。(旅行に行った際に実際歩きもしました)

裏話っていう裏話はないけど、天童くんと訪れたモンマントルの有名な映画のロケ地にもなっているカフェはカフェ・デ・ドゥー・ムーランさんです。ちなみにその映画は『アメリ』。有名で人気な映画なので、モンマントルが舞台で、クリームブリュレを割って食べるのところでもしかしたらアメリだ!と気がついた方もいらっしゃるかもしれません。その「アメリだ」ってわかるひとにはわかるような映画の描写を入れるか否か迷ったんですけど入れました。あの映画の日本ポスターのキャッチコピー、「幸せになる」なんです。ちょっとクセの強い性格の子のちょっと変わった日常をコミカルに描いているんですけど、その幸せに向かっていく映画の結末を知っている人に、とっても地味〜な暗示としてあえて書きました。幸せになるぞ!

簡単な感想として「パリってどこ歩いても映画のワンシーンみたいになるな」っていう個人的な思いがあったので、あえて映画に自分なりにこだわりました。本当に裏の裏話でした。

あと天童くんと訪れた場所をしっかり明記しているのは、旅行とかで行ったことある人は思い出しながら歩いてもらえればいいなぁっていうのと、もしどんなところなのか場所を検索してくださる方がいたらしっかりと画像とか出てくるのでそのを天童くんと歩くイメージが出来やすくなるかなと思ってです。その建物とかわからない方でも、曖昧にせずしっかり名前を出すことで「日本じゃないところ天童くんと歩いてる!」感がしっかり出れば嬉しいなと。グーグルマップとかでルート考えたり、ストリートビューでルート追ったりしました。モンマントル、ほんとに丘なので坂道とか階段とか登り降りして細い小道に曲がってみたりとかなりストリートビュー楽しみました。

たくさんたくさん書いてしまいましたが、天童くんによって救われて、そして天童くんもまたヒロインによって救われている部分がある。それがこのお話の一番の自分の中のテーマでした。

長くなってしまいましたが、ここまでお読みくださった方々、本当にありがとうございました。

2022.02.12 栄田


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