シェケナってなーれ

トランプタワーを組み立てているのかと思われそうなほどの集中力。そーっとゆっくり、落とさないようにバランスを確認しながら彼の頭の上に……みかんを……乗っけた!!


「なに」

「動かないで!落ちちゃう落ちちゃう」

「いやだからこれなに」

「研磨くん鏡餅……あー!!」


ペシッと頭の上を払った研磨くん。コロコロっと頭の上から落ちて、テーブルの上を転がっていくみかん。


「年越す直前までくだらないことしてないでよ」


そう言って呆れながら再びテーブルに顎を乗せ、だらーっと寝始める研磨くんは、鏡餅というよりもお雑煮のようにとろんと蕩けていた。


「くだらなくないよ。新年のご挨拶のための写真を撮ってる」

「くだらないでしょ」

「違うよ!もう一回乗せるから動かないでね」

「俺を勝手に使わないで」

「送り先はいつものお友達たちのみです!」

「知り合いだからって許可してないから」


とか言いながら、なんだかんだ動かずじっとしてくれている……というかそのままだらけている研磨くんは、良いバランスでみかんを頭の上に保ち続けている。

パシャパシャといろんな角度から写真を撮ったけど、正面からよりも後ろ側から撮ったほうが鏡餅感が強くて、その写真を代表して研磨くんを含めたLINEグループに送信した。


「見てみて研磨くん、なっちがフィルターで可愛い色にしてくれたよ」

「返信はやくない」

「あっ、それをさらにみぃちゃんがスタンプでお正月仕様に加工してくれた」

「みんな暇なの」

「なおぴがあけましておめでとうって文字も入れてくれたよ」

「暇すぎでしょ」


もう研磨くんもだいぶ諦めたらしくて、私の友達三人に対してとやかく言うことは、無いわけでは決して無いけどちょっとだけ少なくなった。ほんのちょっとだけ。


「来年はまたみんなで年越ししたいねー。年越しパーティでもしようか」

「うるさいからいやだよ。それにそのいやなパーティの会場どこなの」

「え?研磨くん家」

「却下」

「えー!!」


研磨くんは呆れたように大きなため息を吐いて、手元のスマホをチラッと見た。その流し目がかっこいい!好き!いまだに体勢はデーブルの上に突っ伏す形でダルっとしてるけど!!


「あと二分」

「今年終わっちゃう〜!」

「騒がない」

「今年も……今年も研磨くんのことすっごくすっごく好きだった……!!」

「はいはい」

「来年も研磨くんのことすっごくすっごく好きでいる!!研磨くんは?」

「俺も俺も」


スマホをいじりながらそう言う研磨くんは、もちろんこっちを見ない。今年の私の見納めだよって言ったら、「もう散々見たから大丈夫」なんて言ってスマホをテーブルの上に置いた。

それと同時に、小さな音でつけていたままのテレビから僅かに盛り上がる音が聞こえてくる。どうやらたった今、日付が変わったらしい。

ブルブルと振動した私のスマホ。みんなからのあけおめ連絡でもきているのだろうか。でもメッセージアプリの通知はどれも全部切っている。不思議に思って確認してみたら、KODZUKENのSNS更新通知が来ていた。


「へへ、研磨くんもこの写真気に入ってくれたのー?」

「気に入ってるわけじゃないけど、ちょうど良かったから」


さっき私が撮った、研磨くんにみかんを乗せた写真。しかもしっかりとみんなの加工付きで、あけましておめでとうの文字入りの完成したものを貼り付けて、一言「ことよろ」とメッセージが添えてある。

研磨くんが気に入った気に入らないは置いておいても、こうやって写真が使われるのはやはり嬉しい。彼女としても、彼のファンとしてもだ。


「ふふ、今年ももう既に研磨くんのこと大好きだなぁ」

「はいはい」

「ねー、さっきから適当な返事ばっか。ほんとに私の事好き?」

「めんどくさ。学生?」

「ちょっと久しぶりに聞いてみたくなったの!でもいいや。研磨くん私のこと大好きだもんね!」

「その自信なに」

「ね!」

「……もうそれで良いよ」

「やったー!」


毎年毎年変わらない、研磨くんと過ごす時間と抱く気持ち。


「研磨くんが好きって言ってくれた!」

「言ってはない」

「でも思ってるでしょ?」


研磨くんに近づいて、テーブルに体重を預けて丸くなっている背中にのしかかるように抱きつく。


「……重い」


嫌そうに顔を後ろに向けた研磨くんは、眉間に皺を寄せて面倒そうにしながら「いちいち言葉で言わなくてもちゃんと伝わるように過ごしてるつもりだけど」と言って、また前を向いた。


「ふふふ」

「なに、その変な顔」

「ちょっと!好きな女の子の顔変って言っちゃダメだよ!」

「じゃあそのちょっとむかつく顔」

「むかつく顔もだめー!」


緩みきって落ちそうになった、とろとろのおもちみたいな頬を両手で支える。


「さっきのさ、研磨くんなりの好きって言い方でしょ」

「いいから、いちいち言わなくても」

「いちいち研磨くんが言ってくれない代わりに私が言葉にするの!」

「はいはい」

「もー!」


これからいくつ年が変わっても、私と研磨くんは変わらないまま。これから先もずっと一緒に、変わらないままでいようね!


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