私の気持ちピタッと当ててね

次の日の放課後、結局クリスマス研磨とはどうすることになったの?と尋ねてきた三人に「お泊まりすることになったよ」と報告をした。


「え!?まじ!?」

「私らのこと騙そうとしてる!?」

「してないよ!」

「だって無理って言ってたじゃん!ちゃんと言ったの!?泊まろうって!?研磨はどんな反応だった!?」

「え……孤爪くんから誘ってきたから別にどうもしないけど」

「「研磨からァ!?」」

「こんなことしてる場合じゃないよ!さっさとそれ食べきって!行くよひそか!!」

「どこに!?」


三人は急いで残っていたポテトやらバーガーやらを無理やり詰め込んでいく。早食い王者を決めるテレビ番組でも見ているかのような勢いだ。


「買い出し!!」

「買い出し?」

「可愛くて研磨好みそうな下着買いに行こ〜!」


ポテトを詰め込んで、ハムスターみたいにほっぺをもぐもぐと動かしながら、みぃちゃんが私の方へグーサインを出すように親指を立てた。


「待って!!どういうこと!?」

「どうもも何もそういうことだよ」

「カップルのお泊まりなんかやることなんて一つでしょ。ひそかもついに大人になれるよ」

「ば、そんな、しないもんそういうことは!」

「わかんねーじゃん。研磨だって男だよ!」

「ご両親いるし!!」

「だからって可愛いもの身につけておいて損はないと思うけど〜?」

「それはそうかもしれないけど……!別に大丈夫だもん!良いから本当に!」


顔を真っ赤にしながら声を荒げる私を見て、食べる手を緩めたみんなは「そんなに言うなら仕方ない」なんてどこかつまらなそうにしながら言った。


「というか私的にはひそかがちゃんとしっかり理解があって良かったわ」

「この会話でも何も悟ってくれない可能性も有り得なくはないしな」

「だってみんないつもそういう話してるじゃん!それに流石に私だってわかるよ!子供じゃないんだから!」

「お子ちゃまでしょ〜」


ムスッと頬を膨らまし、あと一口程残っていたハンバーガーを口に入れる。揶揄っている自覚があるみんなは、そんな私を見てごめんごめんと笑いながら残っていたポテトをくれた。

みんなが言うようにパジャマも下着もなんでも、可愛いものを用意して損はない。だから、それは私自身もどうしようかとは考えているけど……。


「お泊まりってことはメイクも落とすんだよひそか」

「……ハッ!!」

「でも一回ひそかほぼすっぴんで学校きたよな?」

「グゥぅぅlその時のことは忘れて!!」

「なんでよ、好評だったじゃんあれはあれで」

「そうなんだけどー!」

「つまり研磨ももうわかってんでしょ」


そうだけど、そうなんだけど。それでもこの問題もとても重要で、とても緊張する。世の中の女の子は、彼氏とのお泊まりは楽しみだろうけど、メイク落とさなきゃならない問題はどうやって乗り切っているんだろう。何でもないように特にその話題には触れずにすっぴんになってみせればいいのか、それとも何か言ったほうがいいのだろうか。でも言うって何を?何もわからない!!


「……お泊まりって難しいー!」

「早くも壊れそうになってら」

「まだ始まってもないのにな」


頭を抱える私に、みぃちゃんが優しく背中に手を添えながら言った。


「世の中ね、なるようにしかならないんだよ。大丈夫。怖がるだけ無駄だから」

「……なにそれ怖い」


好きな人とのお泊まりって、そんなにも怖いことなの!?


――――――――――――――


結局何をすれば良いものかが全くわからないまま、あっという間に二十五日を迎えてしまった。

なおピと約束していたカフェに到着し、可愛い店内とクリスマス仕様になったデザートたちに舌鼓を打つ。

昨日のクリスマスイブはそれこそ孤爪くんは忙しそうだった。終業式が終わって、そのまますぐに部活に向かっていった。部活後はこれからについてのミーティングなんかもあったらしい。らしいというのはそこまでは私も詳しくは知らないからだ。昨日は急に変わって欲しいと頼まれたバイトに精を出した。熱を出していた期間は忙しい時期にも関わらずバイトを休ませてもらっていたから、こうして頼ってもらったからには少しでも貢献したい。


「どうしようなおピ、緊張しすぎてなんだか気持ち悪くなってきた……」

「今吐いたらせっかくのクリスマスプレートがもったいないぞ」

「ううっ」


胸を抑える私を面白そうに写真に撮ったなおピは、私たちのグループトークにすぐさまそれを送信する。なっちから「顔やば」とたったの十秒ほどで返信が来た。ちょっと本当にやばい顔してるんだけど!なんでこんな写真送信したのなおピ!!


「なんかもう……もうダメかも!」

「ダメじゃない!」

「ダメな気がする!」


いつも通りギャーギャーと騒ぎながら孤爪くんの家の最寄駅についた。今日は駅で待ち合わせをしている。もうそろそろ孤爪くんもやってくるだろうと思い足を止めると、とてもタイミング良くスマホが鳴った。


「メッセージきた。後ろだって」

「後ろ?あぁ、後ろ後ろ」


まるでコントのように二人して背後を確認する。少し向こうに孤爪くんがいた。あっ!と声を出すと、うるさいとでも言うように僅かに顔を歪められる。ぶんぶんと手を振ると若干足を早めて私たちの元へやって来た。


「ヨッ研磨。良いクリスマス過ごしてる?」

「……なんでいるの」

「ひっでえ。ひそかが一人になるの可哀想だから研磨来るまで付いててやったの〜」

「ありがとね!」

「まぁ暇だっただけだけど」


なおピに比べて随分と大きな荷物を持っている私に気がついた孤爪くんが、自然な流れでそれを私から奪いながら「寒いから行こう」と言って歩き出す。その背中を追いかけて、「じゃーなー」と手を振るなおピに手を振り返した。孤爪くんも首だけで僅かに振り返ってペコっと頭を下げる。


「ありがとう、荷物持ってくれて」

「これ何入ってんの。重い」

「メイク道具とか着替えとかスキンケア類とか他にもいろいろ」

「女子は大変だね」


重いと言いながらもそれ以上は何も言わずに持ってくれるのだから、孤爪くんは優しい。彼の空いている腕に自分のそれを絡めた。案の定「やめてよ」と眉を顰められてしまうけれど、負けじとぎゅっとしがみつけば、それ以上何も言われることはなかった。

空にはもう星が出ている。この曲がり角を曲がってもう少ししたら孤爪くんの家が見える。思わずゆるむ表情を隠すようにしながら、くっつきすぎて少し動きにくい体勢で二人並んで歩いた。


「楽しいね」

「何もしてないけど」

「でも楽しいじゃん」

「まだ会って五分くらいだよ」

「でも!もう既に楽しいからいいの!」


呆れたような顔をしながら、それでも孤爪くんもどこか楽しげに笑った。その表情を見て私もさらに嬉しくなる。十二月の冷たい空気を吹き飛ばして、体の内側からほかほかと熱ってきた。

今日は楽しい楽しいお泊まり会にしようね!


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