教室に戻った私を迎え入れてくれたのはいつもの三人だった。研磨と仲直りしたー?とお菓子片手に聞いてくるみぃちゃんは、頷いた私の頭を撫でながら「よかったねー」と優しく笑う。まるでお姉ちゃんみたいだ。
「研磨と初喧嘩おめでと」
「おめでたくはない!!」
「仲直りもおめでとー」
「それはありがとう!!」
なんだかんだで心配してくれていた三人は、私の様子を見て安心したように笑いながらお菓子を差し出してきた。それをありがたくもらって私も輪に入る。
昨日まで引いていたしつこい風邪は、もうすっかり良くなった。でもこの前はそう言いながらもぶり返してしまったから、これから数日はまだまだ気が抜けない。
「で、クリスマスは私とカフェ行った後は研磨と合流すんの?」
「へ?」
「え?その話してたんじゃないの?」
「あ、え……してない」
「なんで!?」
さっきまで良かったねと温かい言葉をかけてくれていたはずなのに、途端に立ち上がり「なんで肝心なことをまだ話してないのー!」と三人は怒るように叫んだ。
その勢いに圧倒され思わず黙り込む。すると、なっちが私を指差しながら、「ひそかは本当にクリスマス一緒に過ごすのがなおとなんかでいいのかー!!」と、廊下にまで響き渡っていくほどの大声で叫んだ。
「そうだそうだー!!」
「その言い方私はなんて反応すればいいわけ?私と過ごすクリスマスも最高だろーが!!」
「でもひそかだって本当は研磨と過ごしたいんじゃないの!?」
「う、うん。ごめんなおピ」
「この裏切り者めー!!」
なおピと過ごすのが嫌なわけでも、物足りないわけでもない。だけど、もしも、もしも初めてのクリスマスを孤爪くんと過ごすことができたら、それはとても幸せなことだと思っちゃう。
「孤爪くんに今更だけど言ってみてもいいかな……」
「おう言え言え。もういいよ私とは会わなくても」
「孤爪くん部活だし、予定通りなおピとは会いたいよ」
「くぅ〜!時間潰しでも研磨までの繋ぎでもいいから私とも最高に楽しも!」
「もちろんだよ!なおピとだって繋ぎじゃなく全力で楽しむよ!」
「じゃあ研磨には『夜は孤爪くんのおうちにお泊まりさせて〜』くらいのこと言ってきな」
「それ途端に私が霞むだろ」
「無理だよ何言ってんの!?」
「可愛い下着選びに行こ〜」
「それは無理!!それはだめだよ本当に!!」
「なんでだよ」
いきなり難易度の高すぎる提案はしないでほしい!提案されたってだけで私から言うことはもちろんないけど、でも今そういうこと言われるだけで頭パンクしちゃうから!
孤爪くんに言われたわけじゃないのに心臓がバクバクした。そりゃあいつかお泊まりデートとかもしてみたいけど!けど、でもそれはまだまだ先だって!!
そんな会話をしてしまったから、変にドキドキしたまま下校時間を迎えた。孤爪くんには今日待ってることは言ってないけど、でもなんとかなるだろう。
「……なんでいるの?」
と、思っていた私が甘かったようだ。部活終わりのタイミングを見計らって部室前に向かってみれば、着替えて出てきた孤爪くんは途端に顔を顰め、怒っているような低い声を出した。
「話がしたくて!!」
「さっきした」
「もっとしたくて!!」
「電話でいいじゃん」
「顔見たくて!!」
イライラを募らせる孤爪くんと、全く引き下がらない私の言い争いを見て、なんかこの光景見るの久しぶりじゃね?なんて夜久パイが笑う。黒尾先輩がパチンと手を叩きながら「ハイハイそこまでー」と強制終了させるまで私たちの言い争いは続き、黙り込んだ孤爪くんに睨まれながらも幕を閉じた。
「馬鹿じゃないのそんな格好でこんな寒いのに。校舎内だってあったかくはないでしょ。本当に自分が病み上がりなのわかってる?」
「わ、かってる、けど」
「治ったとか言っといてぶり返してることも忘れたの?風邪は引きずる方が厄介なんだよ。ほんと馬鹿じゃないの。馬鹿。ばか」
「黒尾先輩たすけて孤爪くんがいじめるー!!」
「もう勝手に二人でやっとけー」
速攻で切り捨てられた。ひどい。海先輩だけがこっちを微笑ましそうに見ていて、もう他の人達は私達のことは気にもしていない様子だった。
孤爪くんは未だ怒りながら、私を置いて早足で校門を出て行く。縮まりそうで縮まらない距離にもどかしくなりつつも、駆け足で彼のお世辞にも姿勢が良いとは言えない丸まる背中を追いかけた。
孤爪くん、いつもゆっくりゆっくり歩くのに!肌に触れる冷たさと体内の温度が離れていく。寒い中で熱った頬を赤く染めて、白い息をふわふわと吐き出しながら孤爪くんの名前を呼んだ。
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