すぐに始まった2セット目も、取って取られての繰り返しでなかなか点差が離れない。虎くんや木葉さんが活躍したりしてた。今度バイト先で会ったときこの話してみよう!
そう思ったところで梟谷がタイムアウトを取る。あの木兎って人さっきから調子悪い?となおピが聞いてきた。確かに最初よりは止められる回数が増えたと思う。けれどあかねちゃんが言うように音駒の守備が整ってきてるのもあるから、それ以上細かいことになると今の私の知識では何とも言えなかった。
タイムアウト明けの孤爪くんのサーブから始まったプレー。サーブの時でも冷静に表情を変えないのが孤爪くんらしくて好き。そのラリーの最後、また木兎さんは大きく飛んだ。今まで以上のゴボッという何もかもを吹き飛ばしそうな、そんな恐ろしい音がした。
「ヤッベェ〜」
「もうコート挟んだ殴り合いだね」
「それな」
そこからのラリーは本当にそれ以上の言葉が発せないくらいに怒涛だった。どちらも引かないシーソーゲーム。離れない点差が苦しい。孤爪くんでさえも赤葦くんとちらちらと視線を交わしながらイラついた表情を見せている。どんなところからでも打ち込んでくる梟谷と、どんな球でも拾う音駒。もはや息もできないくらいだった。
「あんなのアリ〜!?」
「ヒィィ、今の木兎さんの何あれ……めちゃめちゃネットに近かった……!」
「敵ながら天晴れ」
「…あんなのズルイよ…カッコ良すぎじゃん…」
会場内に響く音駒コールに梟谷コール。応援にも熱が入る。25点で試合は終わるのに、どちらも一歩も譲らないからなかなか試合は終わらない。前にルールを調べた時に知った、これがデュースってやつだ。
割れんばかりの声援の中、28−30という大接戦で試合は幕を閉じた。
「………っっっ負けた!!!」
「悔しー!!これって次勝たなきゃ全国行けないんだよな!?」
「そう!」
四人で悔しさを噛み締める。選手たちの方がもっと悔しいはずだけど、見ていただけの私たちでも悔しいものは悔しい!!
素早くスマホを開いて孤爪くんにメッセージを入れた。なんて言葉をかけていいのかわからなくて、とりあえず「お疲れ様!」とだけ。するとすぐに既読がついて、「今どこ」と返信が来た。
「研磨のとこ行く?」
「うん」
「いってら〜」
「なおピは行かない?」
「邪魔しちゃ悪いし待っとくよ。次も見てんぞって言っといてな!」
「わかった」
階段を降りていく。どの辺りにいるんだろうとキョロキョロとしていれば、クイっと肩を引っ張られた。
「孤爪くんっ!」
「声大きい。目立つからやめて。こっち」
歩いていく背中を追う。人の少ない場所に出て、そのさらに端っこに「疲れた」と言って孤爪くんが座り込んだ。
「お疲れ様。見てたよ!」
「知ってる、うるさかったし」
「ほんとに!?これでもだいぶ抑えたんだけど」
「それも知ってる」
壁に頭をもたれた孤爪くんは、コテっと首を傾げたような状態になっていてとても可愛い。他のみんなは?と聞いてみると、多分あっちの広いとこいるとその方向を示した。
「会えて嬉しい!けどあんまり長くいると邪魔だよね、疲れてるでしょ?」
「うん、でも待って」
クイッとスカートの端を持たれて裾が揺れる。びっくりして一歩引こうとしたら「そのまま動いたら見えるよ」なんて言葉が飛んできて慌てて立ち止まった。
「何か話して」
「いつも無茶振り!」
「何でもいいよ」
そう言ってゆっくりと目を瞑った孤爪くんに、何を話せばいいのか戸惑いながらも恐る恐る口を開く。
「……今日、初めて公式戦を見た。今までも練習はたくさん見てきたけど、試合ってなると本当に全然違った!まだまだルールもわからないことだらけで、覚えてても展開の早いラリーの中でちゃんとそれを当てはめていくのはやっぱ難しかった」
「ん」
「孤爪くんは何かちょこちょこ赤葦くんと険悪な感じになってた?」
「…………よく見てるね」
「視力はいいの!」
「知ってる」
「もっとバレーの勉強して、次見にくる時は今よりもっともっとちゃんとわかるようになる!もっとしっかりラリーの内容にもついていけるようにしたい!!」
「…………」
「…………?」
「全国行くの確定みたいな言い方するよね」
「あっ」
慌てて口を隠した。プレッシャーになっちゃうかな。孤爪くんは俯いて肩を小刻みに揺らしながら「ほんと、いつもそうやって勝手に押し付けてくる」なんて言ってゆっくりと顔を上げた。髪の間から覗いた目がゆったりとした弧を描く。細められた瞳の奥に映る私と目があった。
「次も見るんでしょ」
「うん!!」
「騒がしい応援はいらないから」
「ええっ」
「でも、虎とかリエーフとかは、わいわい応援される方が嬉しいと思う」
「わかった!」
3位決定戦。次のこの試合に勝たないと全国には行けない。両手をぎゅっと握りしめて、背筋をピンと伸ばした。なんだか目の前にいる孤爪くんよりも私の方が緊張しているように思える。
そんな私たちの様子に二人して笑って、その場を後にした。
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