光る未来にスマイルでレッツゴー!

史上最高に楽しかった夏休み!が、悲しくも終わってしまった。孤爪くんたちは月末にもう一回合宿があって、最後の週も会いたかったけれど、バイトだったり部活だったり、宿題に追われたりで会う時間がなかなかとれなかった。でもLINEとか電話とかはしたし!バイトで疲れて寝落ちとかしたけどちゃんとお話とかは出来てたし、寂しくはあったけど悲しくはなかった。


「あ!黒尾せんぱーい!!!」

「ウィーッス、館ちゃんは今日も朝から元気ね」

「孤爪くんは?」

「第一声それ?今日は朝練もないし俺の用があって別々。先行ってんじゃねーの」

「そっかー、残念」

「黒尾先輩に会えたの喜びなさいよ」


グリグリと頭のてっぺんを押さえられて、髪の毛潰れる!孤爪くんに会えるからって今日はいつも以上にちゃんとセットしたのに!と喚けば「いっつも会ってんじゃん」だなんて返事が返ってくる。一週間以上会ってないから!それだけ?って思われるかもしれないけど、私にとっては長い長い期間だから!


「というか、いいの?そんな服装してて」

「へ?何が?」

「ん?あー、なんでもない」


よし行くぞーとだるそうに歩き出した黒尾先輩の後をついていく。校門に差し掛かったところで、いつもよりもそこに立っている人数が多いことに気がついた。


「げ!生徒会立ってんじゃん!黒尾先輩!隠して!」

「ほら言ったじゃんそんな格好でいいのかって」

「ちゃんと言ってよ!抜き打ちなんてズルだよ!聞いてないよ!」

「抜き打ちなんだから誰も知るはずがねぇんだよな」


いつもは学校が見える前にいそいそと制服を整えるけれど今日はもうアウトだ。だってこっち見てる。もう目の前だもん校門。めっちゃ見てるよあの人たち。ププッと笑う黒尾先輩も残念だったねとでも言うようにこちらを見ている。ちょっとムカつく!


「黒尾せ〜んぱい!隠して!」

「そんな語尾にハートつけても無理です。いたっ、ちょっと無理やり何してんの。いやそんな背中にピッタリくっついて歩こうが無理なもんは無理だからな?」


いいから歩いて!そんで黙って!私はこそこそとしながら、黒尾先輩は堂々としながら校門を通過していく。……………と、見せかけてガッと掴まれた肩のせいで通過はできなかった。


「また君か2年3組館さん」

「いやだー!!前も抜き打ち引っかかった!!早く孤爪くんに会いたいのに!!」


ペッと簡単に黒尾先輩の背中から引き剥がされた私は何やら色々チェックを受けて一枚の紙を突きつけられた。あー!これは前にも渡されたことある!呼び出し状だ!放課後に生徒会室行くやつ!「こんなんマジで貰ってるやつ初めて見た」とゲラゲラ笑う黒尾先輩をキッと睨みながら、「許して会長」と出来る限りのお願いをしてみるけれど「放課後すぐに生徒会室へ来い」とピシャリと言われただけですぐに終わってしまった。

「初日からついてねぇなぁ」と背中を軽く叩いて励ましてくれる黒尾先輩に続いて諦めて校舎へと足を踏み入れる。頑張れよと手を振った先輩と昇降口で別れたら、一気に駆け抜けるようにして教室へと向かった。


「孤爪くん!おはようー!!」

「うわっ…………」

「うわわわ、!!」


こうなりゃもういち早く孤爪くんのところに行って癒されるしかない!とスパァンと教室の扉を開いてそのまま孤爪くんのところに直行して腕にまとわりつくと、いきなりのことで驚いた孤爪くんは一瞬怯んだように見えたけど、次の瞬間にものすごいスピードでバッと私を引き離して距離をとった。


「人前でそういうことしないでって言ってるよね」

「海ではみんなの前でも手握ってくれたのに…!!!」

「あの日のことは終わったら忘れてって言ったでしょ。てか声大きい…!」

「ううううう」

「……なんでそんなに朝から荒れてるの」


不思議そうにこちらの方を見た孤爪くんは、そのまま私の手元に握られたままのプリントを見つけたようで「あぁ」と馬鹿にするような表情をした。く、悔しい!けどその顔もかっこいいし、制服姿の孤爪くん久しぶりに見たから何しても今はドキドキする!

「さっきもそのプリント見た」と若干呆れながら席に着いた孤爪くんは「お疲れさま」と言いながら興味無さそうにゲームを始める。え、もう構ってくれないの!?と悲しんでいると「ひそかー!おはよー!」といつもの声が飛んできた。


「おはよう!」

「やっぱあんたも引っかかってんね」

「仲間じゃーん!一緒に行こうぜ!」

「なおピも!?二人も!?」

「いや、うちらは逃れた」

「初日ってそういうのありがちだから警戒していくじゃ〜ん」


新学期早々裏切り者が二名!なおピは仲間を見つけたのか嬉しそうにしている。く、悔しい〜!朝から悔しいこと祭りだ!でも私も一人じゃなくて良かったって安心してるからありがとうなおピ!放課後生徒会室、乗り込んでやろうじゃん!!


――――――――――――――――――


「君たちは常連だな」

「顔も名前も覚えてくれててありがとな会長!」

「ちゃんとしっかり規律を守って生活してください」

「でもさぁ、チェックの日以外はみんなもこうじゃん?私らだけじゃないじゃん?髪とかだってさぁ〜虎とか!研磨とか!黒センとか!」

「黒尾先輩のあれって寝癖だって聞いたよ」

「まじ!?やば情報じゃん!だから海ではあんなだったのかウケる」

「君たちすぐ話が脱線するな?とにかく割と自由な学校ではあるけど一応僕達もこういう時くらいは厳しく言わせてもらうよ」

「堅い!堅いよ会長!もっと柔らかく行こ!」


コントみたいな会長となおピ二人の会話をほぼひたすら聞いているだけ。こういう時のなおピの勢いには感謝せざるを得ない。何回か入ったことはあるけどあまり見慣れることは無い生徒会室を見渡す。漫画みたいにすっごい豪華!とかそんなことは全くないただの普通の部屋で残念だ。


「つーわけでもう話終わり!以上解散!」

「待てなんで君が決める。あと僕たち一応先輩だからな」

「えー、みんなで帰ろうよ。早くバレー部いきたいっしょひそか。ロボちゃん先輩も早く帰りたいよね?」

「………」


ひっそりと別の机で自分の仕事をしていたもう一人の先輩にも突然声をかける。なおピは恐ろしい。いつも私らがここへ呼ばれる時や廊下ですれ違った時も全然喋ってくれないし、反応も薄いから、あとなんか語呂が可愛いからロボちゃん先輩と勝手に呼んでいた。一度も怒られたことも注意されたこともないから、最近は本人の前でもそう呼んでいるのだ。


「別にどうでもいいけど」

「えー!」


物静かな先輩は全然話さないけど、何やかんやでいつも味方になってくれがちな発言をしてくれるから好きなのに!なおピは「会長〜もういいよね?話終わりだよね?」と朝の私のように全力でお願いをしている。私も一緒になって「次のチェックの日はちゃんとするので!ほんとに!」と手を合わせた。「チェックの日以外もちゃんとして欲しいんだけどな」なんて会長は眉を寄せる。


「もう帰してあげても良いんじゃないですか。チェックっていったって今日だけの形だけだし」

「後半部分余計だぞ」

「ロボちゃん先輩のオッケーでたから部活行ってきます!」

「私も!」

「君たちの部活じゃないのに……」


失礼しました〜!とすばやく扉を開いて体育館へ向かう。せめて廊下は走るなー!と後ろから会長の声が聞こえたので「はーい!」と元気よく返事をしながら手を振った。ちなみに足は止めてない。ごめんね会長!急いでるんだ!


「あ、やっときたひそかさん!」

「リエーフくん!今休憩中?」

「そうっす。俺めっちゃ頑張ってるので終わったらアイス食いたいです!」

「え〜、すごく頑張ってるの見てわかったらね」

「やったー!」


ギャラリーへと登ると先に待っていたみぃちゃんとなっちがやっと来たー!と手を振る。フロアから「お、館ちゃん呼び出しお疲れ〜」と黒尾先輩がまた若干バカにしたように笑うから「みんなにそれ寝癖だってばらしちゃったよ!」と言ったら「勝手に広めてんじゃねーぞ!ま、別にどうでもいいけど」と怒られた。

久しぶりに見るみんなのバレーボールは、なんだか前とは変わっている気がした。素人すぎてどこがどう変わったのかなんてことは言えないけど。前に見た時も充分凄かったのに、なんだろう、例えるなら歯車がカチッとしたような気がする。この感覚が当てはまっているのかもわからないんだけど!


「なんか、強くなってる」

「そう?私にはわかんない。最初から強いじゃん」

「そうなんだけどっ!」


いつものようにスポーツマンらしくはない姿勢でコートに入る孤爪くんを見下ろす。ゆっくりと顔を上げた孤爪くんとパチッと目が合って、嬉しくて手を振ってみたけど、少しだけ大きく目を開いただけですぐにまた他の方を見てしまった。

私には考えられないような素早さでボールを追いかけて落とさないみんなを見ながら、キュキュッと床が鳴る音や、ボールが弾く音に耳を澄ませた。バレーボールのことは詳しくはわからないけど、それでも、孤爪くんがいるこのチームのバレーボールが好きだな。そんなことを考えながら、これからの学校生活に思いを馳せた。

始まる!新学期!


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