「お、おおおお邪魔しますっ!!!」
「…2回目なのに、また何でそんなに緊張してるの」
「何度だってするよ!緊張しかしないよ!!」
ピンポンと玄関のチャイムを鳴らせばゆっくりと扉が開く。中から出てきたのはもちろん孤爪くんで、「いらっしゃい」と言いながら大きく欠伸をしている。のろのろと階段を上がっていく後ろに着いて歩いていけば、たどり着いたのはこの前と変わらない孤爪くんの部屋。
孤爪くんの合宿が終わった次の日、この日は部活が休みだということで会おうとなったはいいけれど、もちろん疲れているはずなのでどこかに行くのではなく孤爪くんの家に集合となった。
「……………」
「いつまで固まってるの、早く慣れなよ」
「そんな簡単に言わないで欲しい…」
この間と同じ場所へ座った孤爪くんの隣へとゆっくりゆっくり近づく。孤爪くんはベッドを背もたれにしながら目をしょぼしょぼさせていてとても眠そうにしている。
「やっぱり今日はゆっくり休んでた方が良かったよね…」
「んー、でも、断らなかったのおれだし」
少しだけ距離が空いていた私たちの間の隙間を埋めるようにピッタリと横へ移動してきた孤爪くんは、そのまま私の肩にもたれるようにして頭を寄せた。
「う、うお、あの、孤爪くん、近」
近い、というより、もはやくっついてる!孤爪くんの頭が乗っている右肩に全神経を集中させながら体を跳ねさせると、グッと孤爪くんは逆に力を込めてくる。ギギギギと漫画みたいな音が鳴りそうなぎこちない動きをしながら顔を孤爪くんの方へと向ければ、至近距離で目線だけでこちらを見る孤爪くんと目が合った。う、うわぁ、上目遣い、やばい。
思わずその視線から目を逸らしてバッと前を向けば、少しだけムッとした雰囲気を醸し出した孤爪くんが右手を伸ばすのが見えた。それに反応して再度彼のほうへと顔を向けると、まるでその時を狙っていたかのように近づいていた彼に一瞬で唇を奪われて、そのまま体重をかけられズルズルとベッドの縁伝いに床へと倒れ込んだ。
「っ、ちょ、っと、孤爪くん」
「まだ、だめ」
唇が離れた隙を狙って名前を呼んでみるも、否定だけされてすぐにまた塞がれてしまう。待って待って、孤爪くん疲れてるはずだから今日は大人しくするんだと思ってたからいきなりこんな展開になるなんて予想はしてなかった!いや疲れてなかったとしてもこんなの予想できないけど!
ギュッと瞑っていた目を少しだけ開いて孤爪くんの姿を確認すると、孤爪くんは何故か目を開けてこちらを見ていて超至近距離でばっちり目が合ってしまった。キスする時は目は瞑るものってなっちが言ってたけど!?驚いて思わず目を見開けば、孤爪くんの手のひらが私の目を覆って視界がとたんに暗くなる。
「…んっ、待っ、」
「黙って」
何度も何度も角度を変えて行われるそれにだんだん耐えられなくなってきた。こんなに一気にたくさんちゅーしたことなんて無かったはずなのに、いきなりのことで頭も体もついていかない。息苦しさに少し口を開くと、待ってましたと言わんばかりに孤爪くんの舌が歯列をなぞってヌルりと入ってくる。途端に先程までの比じゃないくらいに息苦しくなって頭がぼやぼやしてきた。てか、これ、孤爪くんのベロ?!ど、どういうこと?!
「っこづめく」
「痛っっった!!!」
「…え?えっ!ごめん噛んじゃった?!今噛んだよね!?うわぁあ!」
びっくりしすぎて思わず喋っちゃった!!孤爪くんは当たり前だけど口元を抑えながらピクピク震えている。うわぁああゴメンなさい、本当にごめんなさい。これ絶対に絶対に痛い。本当にバカをやらかした!どうしよう!
「本当にごめん大丈夫?!血とか出てない!?」
「…そこで喋るとか信じらんない」
「本当にごめんなさい初めてで頭がついていかなくて、あの、あの」
「へーき……でも、まじで、いたい」
「ほほ本当にゴメンなさい」
アワアワと震えるも上に孤爪くんが乗っかっている状態なので身動きが上手くとれない。肩の横にある孤爪くんの腕にそっと触れてみれば、片手で口元を隠した孤爪くんがムッとした顔でこちらを見る。
う、うわ、今自覚したけど今の体勢だいぶやばくない?押し倒されてるってやつ?孤爪くんに見下ろされるのめちゃくちゃ良い。重力でこぼれる綺麗な金髪がとても綺麗。なにこれ!ドラマみたい!このアングルからの孤爪くんどうにかして写真に残したい!けど出来ないから目に焼き付けなきゃ。
「孤爪くん、しばらくそのままでいて!」
「…は?」
「ここから見上げる孤爪くん超かっこいい!大好き!目に焼きつけるまで絶対動かないでグァッッ…!お、重っ、孤爪くん重い…!」
「ホントに何してもうるさいよね」
「っそこで喋んないでくすぐったい…!」
私の上で潰れた孤爪くんはゴロンと回転して横に並ぶ。もう!動かないでって言ったのに!残念そうに横にいる孤爪くんを見れば、ハァともう聞き慣れてしまったため息が吐かれる。
そのままグッと肩を引かれれば、孤爪くんの腕の中にすっぽりと収まってしまって、同じように私も孤爪くんの背中へと腕を回した。
「好き〜」
「はいはい」
「流さないでそこはおれもだよとか言って欲しい!」
「めんどくさ」
ぎゅうぎゅうと回す腕に力を込めれば、「この前はこの体勢になっただけでギャーギャー言ってたのにね」と言いながら同じように抱き締め返してくれる。嬉しくなって恥ずかしさもどこかへ吹っ飛んだ私はちょっと強気に「孤爪くんは2人きりになると急にベタベタしてくるよね」って笑えば、「館さんは外でするからタチ悪い、家では大人しいのに」と小言を返される。
「ねぇねぇ孤爪くん、今度は絶対に噛まないようにするからまたして」
「…………」
「ね〜お願い!さっきみたいなちゅーして!」
「……やってって言われるとめちゃくちゃやりづらいから嫌だ」
「何で!?」
「もう噛まれたくないし」
「噛まないようにしますっ!」
うるさいと背中にあった手を後頭部に移動してグッと力を込められて、孤爪くんの胸元に顔を埋めさせられる。しゃべれなくなった私は声にならない唸り声をあげながらしがみつくように腕に更に力を入れた。孤爪くんはそんな私を見てククッと喉を鳴らすように少しだけ笑った。
「館さんって陽キャだし」
「…いきなり何の話?」
「おれ以外にもああやって仲良い男子なんてたくさんいることなんてわかってたけど、柄にもなくちょっと動揺した」
「梟谷のみんなのこと?」
「………ん」
「でも館さん馬鹿みたいにおれのこと好きだし。焦って損した」
「損はしてないよ!?焦ってよ!」
「やだ。めんどくさいし、かっこ悪いし」
「私は孤爪くんがやきもち妬いてくれて嬉しかったけどなぁ」
「…………もう忘れて」
「やだ!絶対忘れない!」
もう一度ボスンと音を立てて孤爪くんの胸元に顔を埋めれば、「そこにいられたら何も出来ないんだけど」と少し挑発的な声を出される。さっきは自分からしてと言っていたのに、そう言われてしまうと途端に恥ずかしくなってくる。真っ赤になってしまった顔をゆっくりと上げれば、案の定「へんなの」って笑われて額を撫でられた。
「疲れた、少し寝よ」
「床だと体痛くなっちゃうよ?いいの?」
「いい、床で」
「前もそう言ってたけど、孤爪くん床好きなんだね」
私の頭を抱え込んで後頭部に顔を埋めた孤爪くんはそのまま寝る体勢に入る。されるがままに大人しく抱えられていれば、孤爪くんは触れ合っている足を動かして私の片足を挟み込んだ後にゆっくりと口を開いた。
「前にも言った」
「?」
「色々したくなって困る、だからここでいい」
「……………」
他の人には見せられないくらいにきっと全身真っ赤に染め上がったであろう自分を隠すようにして孤爪くんにくっついた。すぐにスヤスヤと規則正しい寝息が頭の上から聞こえてきて、カチコチに固まりながらドキドキとうるさい心臓の音がおさまるのを待った。
孤爪くんと2人きりになると、心臓が何個あっても足りない。
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