ふんわり恋人一年生

合宿最終日。長い練習をようやく終えてみんなは最後のバーベキューで盛り上がっている。けどおれはそんなに食べる方でもないし、早々に切り上げて端っこに座り込む。クロたちのダル絡みもスルーして、ゲームでもしようとiPhoneを取り出せばタイミング良くピロンピロンと通知が来る音がして、最近以前よりよく使うようになったメッセージアプリを起動した。


『見て見て!』


メッセージと共に送られてきた写真をタップすれば、お揃いの服を着て写っている4人の姿。双子コーデっていうの?でも4人だから4つ子?よくわからないけど、女の子ってこういうの好きだよなぁって思いながら、ポチポチと返事を打つ。


「研磨、それ誰?」

「うわっ翔陽か、びっくりした…」

「あ!ひそかちゃんだ!!」


勝手に画面を覗き込んで大きな声で叫んだ木兎さんの言葉に翔陽は「ひそかちゃん…?」と首を傾げている。その声に反応して「お〜ひそかちゃん元気してるー?俺にも見せて」と寄ってくるのは木葉サンたち。


「見せない、あっちいって」

「あ!研磨さん、インスタに上がってる写真見ました!?」


リエーフが少し遠くからスマホ片手に笑顔で近づいてくる。こういう時のリエーフは本当に余計なことをするから嫌だ。やめて、やめてと思いながらその続きを待っていると、SNSを開いた画面をズイッと差し出してきた。見るとそこにはさっき送られてきた4人の動画バージョンが投稿されている。


「うお、ギャル4人」

「これ研磨の友達!?東京すげぇー!」

「孤爪の彼女だよな!!!」

「え!?彼女!?研磨彼女いるのか!?」

「………うわ、なんで言うかな、最悪」


居心地が一気に悪くなってその場を離れようとするも、いつの間にやら近くにいた赤葦にぶつかって引き戻される。ゲッとあからさまに嫌な顔をしても何も動じない目の前の男は、無表情ながらに少し楽しそうな顔をしてじっとこちらを見た。

いち早く逃げたい。けど、今この場所から姿を消したら赤葦とリエーフにあることないこと言いふらされそうで困る。観念して再度腰を下ろせば、「なぁ!研磨の彼女ってどんな感じ?ギャルって怖い!?」と純粋に知りたがっている翔陽がぴょんぴょんと飛び跳ねながら話しかけてきた。


「…………べつに、怖くはない」

「へー!同い年?クラス一緒?」

「あー…うん」

「どんなとこが好きなの!?」

「は!?…ちょっと、さすがにそれは答えられない」

「えー!!!俺も知りたかった!!!」

「………………」


木兎さん声大きい。翔陽もうるさいけど。ほんと厄介な人達に掴まった。リエーフが大人しいなと思ったら、木葉さんたちに先程のSNSを見せながら「ついこの間載せてたワッフル食べに言ってた時の写真がめちゃくちゃ可愛かったんすよ〜」と勝手に写真を見せている。勝手に人の彼女を自慢げに広めないで欲しい。

ブルブルとiPhoneが震えて画面に目を落とすと、案の定ポンポンと勢いよく通知が飛んできた。なぜか勝手に招待されていつの間にか作られていた5人のトークルームに絶えず写真とメッセージが送られてきていて、はぁとため息をついて眉を寄せていると、それを見た赤葦が読めば?と話しかけてくる。読めば、じゃなくて赤葦が読みたいだけなんじゃないの。

たとえどんな内容だろうと弄られるんだろうと思いながらそのトークルームをタップすれば、4人で撮ったプリクラだとか自撮りだとか、不意打ちに撮られたであろう友達と話す館さんの写真が送られてきていて頭が痛くなる。せめてメッセージで来ていれば良かったものの、写真だったのでばっちり見られた。最悪。


「…こういうの見るとほんとに付き合ってるんだなってわかってちょっとびっくりする」

「…………関係ないじゃん。赤葦って他人のそういうのに首突っ込まないタイプだと思ってたけど」

「そうだね、でもちょっと面白そうだったから」

「うわ、性格悪」

「なぁ!この中のこの人?研磨のカノジョ!」

「っうわ、翔陽、いきなり後ろから話しかけてこないで」

「ごめんごめん」


完全に油断していて翔陽が後ろから覗き込んでいるのに気が付かなかった。キラキラしたような目でこちらをみる翔陽にすこし気まずくなる。木兎さんに呼ばれた赤葦が立ち上がると、その場所に腰を下ろした翔陽はそのまま画面を覗き込みながら口を開いた。


「研磨と全然タイプが違うな」

「翔陽も、変って思う?」

「なんで?」

「…こんなに見た目も性格も違うと、変なのって思われること、多いし」

「別に思わないよ?」


だって研磨は好きなんでしょ?あっけらかんとした顔でそう言われれば、なんて返せばいいのかわからなくて言葉に詰まってしまう。「翔陽、やっぱり面白いね」って笑えば、研磨が笑った!ってまた騒ぎ出すから静かにしてとまた顔を歪めた。

いいんだ。おれが好きなら。館さんに散々自分からああ言っておいて、ちょっとだけ不安に思ってたのはおれも同じ。安心したとは思わないけど、なんだか心が軽くなった気がして、またピロンピロンと音を立てて鳴ったトークルームに「うるさい。いい加減通知消すよ」と一言だけ返した。


「こーんな時でもやりとりしてるなんて、研磨クンが珍しいね」

「…クロ、それ以上変なこと言ったら怒るよ」

「おい、俺に対してだけ厳しすぎだろ」

「うるさい」


ゆっくりと立ち上がって、人の少ない日陰の方へと歩く。後ろをついてきたクロは一緒になってそこに腰を下ろして、たくさん食べろ〜とおにぎりを手渡してくるけどそれはスルーした。


「研磨の色んな姿が見れて面白くていいね」

「…クロは?」

「俺の話はいーの」

「ずるい、俺ばっかり」

「まぁ俺は去年から研磨くんの恋を見守ってきてたんで?」

「待って、あれは違うって言ってるじゃん」

「でも今考えるとそうだろ?」

「…………」

「いいねぇ、青春」

「おっさんくさい」

「俺もピチピチの高校生だって言ってんでしょーが」


ほれ食えよ、と食べかけのおにぎりの最後の一口を差し出される。いらないと不機嫌に答えると、もーそんなんじゃ大きくなれないって言ってんでしょ!と言いながらそのおにぎりを大きな口でパクりと飲み込み、遠くから聞こえる木兎さんたちが騒ぐ声の方へとクロは行ってしまった。

長かった合宿が終わる。去年までと同じようで、全く違う、夏が始まる。


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