6年間

「みんな集合〜!!!!」というバカでかいぼっくんの声に耳を抑えながらこちらを睨みつけて舌打ちをする臣くんと、何かあったんですか?と素直に駆けてくる翔陽くん。

確実に人選を間違えた。そう思った時にはもう遅かった。翔陽くんにこの話すんのもな、かっこいい先輩でありたいしな。と翔陽くんを候補から外して、かと言って臣くんに話したところでざまぁみやがれと吐き捨てられるのが目に見えていたので、残ったぼっくんに不満を漏らした。だがしかし、ぼっくんに伝えたら全員に伝わってしまうという可能性を完全に失念しとった。


「それで侑さん、今回は何があったんですか?」

「毎回何かあるみたいな言い方やめてくれん?」

「くだらねぇことだったらすぐ帰るからな」

「臣くんはお口が悪いなぁ」

「早くしてミャーツム!」

「何でそんなに急かすん?待て出来んの?」


いつもの店でいつものようにいつものメンバーで集まる。何やかんやついてきてくれるからこいつらは優しい。せやけど今日は望んでなかった。なぜならもう完全にダサいのがわかりきっとるからや。今までも十分ダサかったやんって?うるさい黙っとれ。それはまた別の話やろ。


「ぼっくんよろしく」

「俺が言っていいの?」

「ええで。スパッと言ってくれ」

「わかった!」


みなちゃんが会社の男と仲良くしてるから寂しくて泣いちゃうんだって!と声高らかに俺の事情を代弁してくれたぼっくん。うん。まぁ間違ってへん。間違ってへんけど随分と可愛い表現にされてしまって、なんだか逆に恥ずかしいわ。キョトンとした顔をする翔陽くんと、ウワッという顔をする臣くん。ぼっくんはそのまま届いた料理に興味を移した。いやいや、誰かなんか言えや。あとぼっくんちょっとは待てしといて。


「せめてなんか一言言うて!」

「……何しても本当にお名前はめんどくせぇな」

「悪口すぎん?!何でそんな酷いことが言えるん!?」

「確かにそれは寂しくなっちゃうのもなんかわかります!」

「やろ〜?うさぎは寂しくなると死ぬ言うしな」

「それガセらしいぞ」


ハッ、と見下したように笑う臣くんをキッと睨みつけると、隣に座っとる翔陽くんが慌ててまぁまぁと俺の肩を押さえる。

みなは最近仕事の帰りが遅い。仕事なんは仕方ないけど、それですら少し寂しい。それやのに何かの企画作りでチーム組まされた中の一人の男と最近やたらと仲が良いらしく、何だか楽しそうにしとる。正直学生の時から今まで、こいつ友達まじでおるんかなって心配になるくらいに一人やったから驚いてるのもあるのかもしれん。けど何で男なん?どんな理由なん?あかん。考えとったらまたイラッとしてきた。寂しいのと同時に少しイライラする。


「あーもうあかん!あかんー!」

「今までのこと棚に上げてよくそんな叫べるよな」

「ぐぅ…!」

「浮気とかではないんですよね?異性の友達とかなら別にいいんじゃないですか!あっほら、俺も谷地さんとかそうだし」

「浮気なわけないやん!!!!!」

「うるせぇ」


みなは俺のやん!俺の!そう言うと今までずっとパクパクつまみを食い続けとったぼっくんが「こころせま…」と少し引いたような顔をする。


「お前、そんなんじゃいつか愛想つかされるぞ」

「なんちゅーこと言うんや!」

「だめだめなツムツムにも付いてきてくれてたのに〜」

「…………ぐぬ」


もしかして俺が心狭いんか。みんなこんなに俺の味方してくれへんなんて、俺の心が狭いんか?そうなん?え〜。「みなさんに直接聞いてみればいいじゃないですか!きっと侑さんにならちゃんと話してくれますって!」と、翔陽くんが笑う。そうやな。俺はみなのこと信じとるし、ここでうだうだ言っててもカッコ悪いだけやもんな。よし、帰ったらみなにちゃんと聞いてみよ。

……………と、決意したはいいものの。


「………みな〜」

「なに?」

「き、今日は良え天気やったなぁ」

「曇りだったけど」

「なぁみなは俺のこと好きやろ?」

「突然何?……宮くん、今日いつも以上に変じゃない?」

「別に変やないし!!!てかいつも以上ってなんや!!!」


みなは俺から少し距離を取って、こちらに怪訝な目を向けた。うう。こうなったらもうしっかり言うしかない。回りくどく最初は違う話題から……とか考えとったけど、今の俺にそんなやり方がきちんと出来るわけがなかった。


「……なぁ」

「なに?」

「最近仲良うしとる会社の男だれ?」

「……前もちょっと話したけど、先輩だよ」

「へぇ」


そのままお互い黙り込んだ。気まずい空気が俺たちを包み込む。…………あかん。あかんあかん!居心地わる!自分の家なんに!

飛びつくようにみなの方へと体を伸ばすと、反応しきれなかったみなが「わ」っと声を上げて床へと倒れた。押し潰すようにして上に乗っかってぎゅーっと抱きしめる。いきなりなに、と慌てるみなの頬に一つキスを落として、「寂しい」と耳元で零してみれば、ピタリと動きを止めたみなが「へ?」と珍しくマヌケな声を出した。


「みな、友達なんておらんかったやん」

「それは、たしかにそうだけど…」

「仲良うするんはええことやけど、どんな理由なん」

「えっ……と」


こんなに近くにおるのにこちらを見ようとはしないみな。顔を覗き込んでも視線を外されてしまって、ムッとして無理やりほっぺたを両手で挟んでこちらを向かせた。


「俺に言えないことでもしとるん?」

「そんなわけ……」

「……ないよなぁ。みなやもんなぁ。するわけないんよ」

「…………??」


みなが俺が悲しむこと、するわけないやん。そう小さく溢せば、目を見開いたみなが「う、え、みやくん?」なんてこれまた滅多に見れんような取り乱した反応をする。

ほっぺたに当てとった手を離して、横にごろんと転がって全身でみなに巻き付くと、じっとこちらを見とったみなとバッチリ視線が合った。


「みなは絶対俺のこと裏切らんって知っとるし」

「じゃあ何で」

「それでも他の男と仲良くしとるのは寂しいやんか〜!理由知りたいやんか〜!」


ギュウギュウと巻き付けた手足に力を込めれば、「くるし…」とくぐもった声を出したみながやんわりと俺の胸元から顔を上げた。少しだけ頬を染めてこちらを見上げるその唇に、一度噛み付くようにキスを落として、「話してくれん?」と聞いてみれば、観念したように頷いたみながゆっくりと口を開く。


「……その人、バレーボール、好きで」

「ほぉ」

「……ジャッカルのファンなの」


見る見る顔を真っ赤っかに染めていくみなは両手でそのリンゴみたいなほっぺたを隠しながら、「はじめて宮くんのバレーの話が誰かと出来て……嬉しくてついつい話し込んじゃって」と、後半ほとんど声になってないようなヘナヘナした音を出しながら、ポスっと胸元に顔を埋めたみなが「でもさすがにちょっと恥ずかしくて、宮くんにも話せなかったんだ」と、少し掠れた声を出す。


「……俺の話しとったん?」

「うん」

「俺の?バレーボールの?」

「そうだよ」

「ずっと?」

「ずっと。あの試合では宮くんはああだったとか、こうだったとかの話。それ以外は仕事の話しかしてないよ」


キュッ、と背中に手を回したみながさらに強く密着してくる。ゆるゆると顔中の筋肉が力を無くしていくのがわかった。今絶対だらしない顔しとるから、みなが顔を上げないのが好都合や。けど、ここからでも見える僅かに髪の毛の間から覗く耳が、もうそれ以上は無理やろってくらいに赤く染まっとるのを確認すると、今の俺の表情を見られてもええからみなのその顔も見せてほしいと思う。


「……みな」

「…………」

「ほんまに俺のこと、好きすぎちゃう?」


頭のてっぺんに口付けて、そのまま無理やり顔を上げさせる。額、目蓋、鼻、頬。ゆっくりと滑らせて、それから口の端っこに小さく吸い付くと、そのままみなが少しだけ顔の角度を変えて自ら唇を合わせてきた。


「宮くんは、私のこと信頼しすぎでしょ」


目まで真っ赤っかにしたみなは、うるむ瞳を隠そうともせず震える声でそう告げた。


「みなが長い時間かけて積み上げてきた結果やん」


もう一度キスを落とした。今度は俺から。涙を堪えとるせいか少し苦しそうにするみなが「ん」、と色っぽい声を漏らして、俺の首元に腕を回す。


「でもやっぱり寂しいもんは寂しいから、これからは全部全部話してな」

「わかった」


寂しいって本人に直接言うのはちょっとばかし恥ずかしさもあるけど、でも本当にそう思っとるから素直に伝えるしかない。みなに全部話せって言うたんやから、俺も全部伝えないと。

それでも伝えきれんみなへの気持ちはどうやって届けたらええんやろ。難しいなぁ。と思いながら、仲良うしとる理由が分かった途端にその会社の男への興味が完全に薄れてしまったことに気がつく。

友達作るんは良えことやし、俺にも女友達だっておる。みなだって男友達の一人や二人おったって全然構わないけど、それでもやっぱりおもろくないとは思うわけで。こんなことぼっくんにも翔陽くんにも臣くんにも言えんけど、ちょびっとかっこ悪いような気持ちでもみなにはちゃんと届けたいって、そう思うわけで。

べつに浮気なんて最初から疑っとらん。みなが俺以外を選ぶはずがないから。これは自惚れとるわけやなくて、今まで何年もの時間をかけてみなが自分で培ってきた確実な信頼の証や。その結果がこうして今の俺とみなの関係を作っとるだけ。


「なぁ、俺も全部全部みなに伝えたいから、ちゃんとしっかり受け取って?」

「……もちろんだよ」


パチッ、と部屋の明かりを消した。月明かりがほんのりと俺たちを照らす。雪崩れ込むようにしてベッドへと沈んだ。目の前の柔らかい身体をこれでもかってくらいの力で抱き寄せる。

好きも嫌も寂しいも愛しいも、全部ちゃんと伝えるから、みなもどんなに些細なことでも、全部俺に届けてほしい。



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