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「名前を与えたそうね、彼に。」
『ふぁい?』
「・・・・・・・・言いたい事はあるけど。とりあえず、口の中を綺麗にしなさい。」
『へーーーーい』
どうもみなさんインテグラ、今大量のマカロンを口に含んでいる状態です。
いや、だってうまいんだもん。さすがだよね
『・・・・名前って、アーカードの事ですか?』
お菓子に夢中の中で聞こえたのは“名前”だけで、それが誰なのか推測して名前をだした。
「そう…アーカードと言うのね」
そう言ってほほ笑む彼女の笑みは今まで見たことのない…なんというか乙女の顔であった。
『もしかして、アーカードが好きなんですか?レディ』
ガタンッ!!
そう口にした瞬間、テーブルの上にあったポットやカップだ衝撃で倒れた。お菓子は私が死守した。
テーブルに衝撃を与えたのは彼女の足であった。
私の突然の質問に驚いて、立ち上がろうとして机にヒザをぶつけたのであった。
そんな姿を見せられてしまったら、もう答えなようなモノであった。
たとえ、今どんなに顔を作って冷静を装うとしていてもさっきの状態ではすべてが無駄な努力であった。
『やっぱりじゃなですかぁあああああ!!』
と、追求してしまう所だったが思わず口を押えた。
ここで深入りしてしまうと後が怖いと思ったからである
なんたって、彼女はこの国で一番美ししく尊い方なのだから
ウチの家なんて彼女の小指一つでチョチョイのチョイである何てことは、悲しいが事実なのである。
だから私はニッコリと執事に教えられた優しい笑みを浮かべて言うのである。
『今度、こちらにお連れしますね。レディ』
そう言って、彼女がただ頷くのを見て思った。
(罪な男だなー。アーカード)
カチャリ
主が留守中の間に、彼女が片づけた仕事の整理と新たな仕事の補充のために執事のウォルターはインテグラの執務室に入った。
「・・・・・お前が昼に起きているとは珍しい。」
どうやらその部屋には自分より先に先客がいたようで、誰もいないはずの部屋に入ったときに目に入る赤に驚いたがウォルターはすぐに表情を戻してそう言った。
「何時の間にこの部屋に入ったんだ?」なんて愚問はするつもりはない
この男、アーカードの前では人間の常識なんて皆無なのだから。
「我が主の気配が屋敷から消えたからな・・・・。」
そう言った男のそんな様子を初めて見るウォルターは目を見張ったのである。
どうやら自分が思っている以上に彼に“名前”を与える行為はそれほどまでに主に執着する出来事なのだろう。
彼女の父であるアーサーには、もちろん従僕の態度をとってきたが
“気配が屋敷から消えた”と言って態々、身に来るなんて事はあり得なかったのである
ノーライフキング、殺しのジョーカー、不死者(ノスフェラトー)、最強のアンデッド
そんな恐ろしい名前で呼ばれていたこの男がただ一人の少女に屈しているとい事
ウォルターは主を想えば、恐ろしく思う。
同時にとても面白いと思う。
予測できない彼女の行動、言動はすべてを巻き込んで形作り面白く成り立つ様はまさに痛快である。
(お嬢様は罪なお方だ)
これほどまでの男を虜にしてやまないのだから・・・。
「・・・・・・・・・。」
そう思っていると目の前の吸血鬼はふいにこちらに向いたのであった。
自分を見ている訳ではないというのはすぐに分かる。
間もなくここに現れる主に気付いたからだ・・・。
分かっていなくても、すぐにわかった。
『ただいまー・・・って、どうしたの?二人して』
予想通りに現れた主、インテグラは当主らしからぬ少女の笑顔を私達に向けた
似合わないと自分でも思っている。
自分のような闇に染まった者達にそんな笑顔が向けられるべきではない
だけど、何度そう彼女に言っても彼女は変わらずの笑顔を向けるのであった
どちらとも主の質問に返事をしなかったが、彼女はそれで怒ると言った人物ではなかった
そのまま何かを察知したのか何も言う事はなかった。
『あッ!そうだ、アーカードとウォルター。お前らに渡そうと思っていたんだ』
そう言って主は手いっぱいに貰ってきたお菓子(後で没収は決定である)の他に持っていた紙袋から小さな長方形の箱をアーカードに正方形の箱を私に渡した。
『私が当主になったお祝いだ。君ら二人にはこれからジャンジャン働いてもらうからなッ!それはワイロだ』
渡された本人よりも楽しそうに笑っている主を見ながら、アーカードは無言で箱を開ければそれはサングラスであった。
「ほう」
意外そうな声を挙げたアーカードに主は満足そうに笑った。
『なるべくは避けるが。もしかしたら、日中にアーカードを頼むかもしれないからね…完全遮光のサングラス。お前が何時も着る服によく合うだろう』
そう言っている主の言葉など気にしてないようにアーカードは楽しそうにしていた。
それほど、物を貰う事が嬉しいのだろう。
『父からは名前だからな、私からはソレだ。』
そう言って得意げに笑う主は嬉しそうに笑っていた。
『ウォルターには懐中時計』
そう言って主が自分の箱を開けば、真新しい懐中時計に目を見開いた。
『時を刻め、老人よ!老いは人が許された、もっとも美しい瞬間だ。』
そう言って笑う主の姿はきっと何年たっても忘れる事はないだろう。
(私も老いたかった、貴方と一緒に年老いて行きたかった。なのに・・・どうして私は生きている?どうして私は死ねないの?
あぁ、悲しい。自分の子供が孫が先に死んで行くなんて…なんて悲しい。永遠の命なんて儚いものだわ)
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