御伽噺 | ナノ
【希う心〜御伽噺〜】


温もりに気付いて目が覚めると、間近に先輩の寝顔があった。
よくそこで叫ばなかったものだ、と自分で自分に感心する。

(…相変わらず綺麗な顔)

起きている時だけじゃなくて、寝ている時も綺麗だなんて。

(…御伽噺みたいだ)

自分の思考回路に笑ってしまう。
いくら綺麗でも、先輩は男だ。
自分と変わらない性だ。
だからこんなにも…苦しい。

先輩と初めて出逢ったのは、入学式の日だった。
初めての寮生活に不安しかなかった自分を慰めてくれたのが、先輩だった。
始めは皆そうなんだって。
でもその内何でもなくなるからって。
頭を撫でてくれた手が温かくて。
泣きそうになったのを覚えている。

それから半年が過ぎて。
先輩の言った通り、すぐに不安なんて消えてしまって。
寮生活も悪くないな、と思い始めた頃。
先輩の姿を見るたび、苦しくなる想いに気付いてしまって。

「…先輩」

先輩にとって自分は、後輩の一人に過ぎないんだろう。
名前を覚えてもらって。
少し優しくされて。
親しくされて。
それで自惚れてしまえる程馬鹿じゃない。
そうじゃないけれど。

(…少しくらい、特別、になれているのかな)

そんなことを考えていたから、魔が刺した。
まだ目覚めませんようにと祈りながら。
そっと、顔を寄せる、と。

「…え」

強い力で、腕を掴まれた。
思考が停止する。
見下ろす先には、先輩の綺麗な、瞳。

「い、いつから…」
「んー…」

少し考える風に先輩は視線を宙に向け、そして、。

「ちょ…っ」

反転する世界。
いつの間にか、今度は自分が先輩を見上げていた。
足を絡め。
身動きが出来ないようにされて。

「冗談はやめてくださいっ」
「冗談、ねぇ…」

くす、と笑う口元が、本当に愉快そうで。
そんな表情も綺麗だと思ってしまうなんて。

(末期だ)

「ねぇ、キス、しようとしてたデショ」
「な…っ」

慌てて先輩の身体を押しのけて逃れようとする、けれど。
その手を掴まれ、頭の上で一括りにされる。
逃げられないように。
身体も、視線も、心も。

「ねぇ、何で?」
「せんぱ…」
「なんで、キスしようとしたの?」

わかっている癖に。
楽しそうに、笑みを浮かべて。
それでいて、不安そうに瞳を揺らめかせて。

(…不安?)

ずっと不思議だった。
殆ど接点のない筈の自分と、何故いつも親しくしてくれたのか。
いつも優しくしてくれたのか。

「…先輩が、好きだから、ですよ」
「ん?」
「先輩が…」

言葉が続かなかった。
突然、飲み込まれてしまったから。

「ん…せんぱ…っ」

言葉にならなくて、ただ、先輩を呼び続ける。
息をつく間も与えてくれない、キスの合間に。

(先輩…先輩…)

何度も、何度も。
そうして、苦しくて涙が零れそうになる頃。
スキダヨ、と耳元で囁く声に。
今度こそ、涙が溢れた。


【Fin.】

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後書代わりの戯言

こちらも、某所に行った時の(以下略)
なんというか…うん、妄想力…げふんげふん、想像力がすごく、かきたてられるんですよね
ここから、いろんな展開が出来そうですが…SSということでここまでで(笑)

前後が気になるなぁ…
今後のシリーズ展開で出せればいいなぁ…と思う二人組でした♪

web clap

2012/05/06 Wrote
2012/05/19 UP

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コイ
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