触れたくて、触れたくなくて・2


あの日から、数日。
あれから一言も、彼と話をしていない。
上司であるから、それなりに仕事の話はするけれど。
それだけで。

(どうしていいかわからない)

どうして彼は、想いを受け入れてくれたのか。
同情だったのだろうか。
断るのも面倒くさかったのだろうか。
キスより先に進まなかった理由は。
大切にしている、されていると思っていた、のに。

(勘違いも、甚だしい)
(資格なんて、なかったんだ)
(最初から)

「秋山」

業務終了後、荷物を片付けていると。
ひっそりと、自分を呼ぶ声がした。
ふと顔を上げると。
そこには、不安そうに瞳を揺らす、彼の姿。
その姿は、いつもの少し怖い上司の姿ではなく。
年相応の、6つ年下の、少年の姿だった。
部屋にはもう自分たちしかいない。
だから、彼も声を掛けたのだろう。

(何を言われるのだろう)
(別れたい、とか)
(でもそもそも付き合って、いたんだろうか)

こんなにも。
こんなにも、狂おしい程。
苦しい程。

(好き、なのに)

「すみません。宗像室長に呼ばれていますから」

真っ直ぐ、彼を見ることができない。
わざと室長の名前を出すことで。
彼がどんな表情をするのか、見たくなかったから、だ。
でも、やっぱりそのまま退室できなくて。
こっそり振り返ると。
彼は、肩を落として。
吐息を漏らしていた。

「伏見、さん」

呼び掛けると、喜色を露にして、顔を上げる、彼。
それが不思議で。
どうしてだろう。
彼の姿を見るだけで嬉しくて。
声を聴けるだけで幸せで。
そんな、想いは、。

(俺だけの、一方的なもの、のはずだろう?)

瞼を閉じれば、闇が広がる。
闇の中には、あの日見た光景が甦る。
尊敬すべき、上司と。
あいすべき、人の、重なる姿。

「もう、終わりにします。すみませんでした」
「あ…きやま?!」

呼び掛ける言葉に、今度こそ振り返らず。
そのまま、扉を閉めた。


2012/12/22 Wrote

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