触れたくて、触れたくなくて・1
尊敬すべき上司という感情から、気持ちが変わったのはいつからか。
尊敬から、想いは変化して。
深くなって。
でも、通じるとは思わなくて。
だから、そういう付き合いになれたときは夢かと思って。
でも無茶はさせたくなくて。
深い関係になることを望んでいなかったわけじゃないけれど。
でも、大切にしたくて。
言葉にはなかなかしてくれないけれど。
伏見さんも、そうだと思って、いたのに。
(だから、あの噂だって…信じてなかったのに)
眼前に広がる光景に。
息が止まる。
血の気が引く。
「おや、秋山くん。どうしましたか」
「あき…?!」
目にしたのは。
こうありたいと尊敬する上司と。
恋人だと思っていた人の、あられもない、姿。
「み、るな……あぁ…っ」
「どうしました、秋山くん。用事がないなら、ドアを閉めて貰えますか」
彼が風邪を引いてしまいますよ、と。
優しく告げる声は。
けれど、冷たく。
彼の上気した肌と相まって。
「も…うしわけありません」
これは、わざと、なのか。
いや、自分は、いつ行くとは言ってはいなかった。
だから、室長も、最初は驚いた顔をしていた。
だから、これは、偶然、なんだ。
(悪質な偶然だ…)
大切にしたくて。
だから、言葉と態度だけで充分だった、のに。
『伏見さんって、室長の……なんだって?』
『まさか…』
『でも見た奴いるって』
『まぁ…室長のお気に入りだから、個室なんだろ?』
『ナニしてんだろーな』
聞いてしまった噂話が脳裏から消えない。
どれだけ、心の中で否定したか。
けれど、。
(伏見さん…伏見さん…)
涙が、止まらなかった。
2012/12/20 Wrote
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