生きようとした 中

トト | update : 2013.12.19
FF9終盤の終盤。決戦後。クジャとジタンは果してどうなったのか?感動のエンディングに至るまでのお話。(三部構成)


「おい! 生きてるか!?」
 声をかければ、満身創痍のクジャは、ゆっくりと首を回す。
 こちらを見た彼の顔からは、つい先ほどまでのような荒々しさを認めることは難しかった。
「ジタンか……?」
 視力は無事なようだ。ジタンはホッと胸をなでおろし、溝を飛び越えて、横たわる彼の傍らに立った。
 クジャは、浅い息に交えて言う。
「逃げろと言ったのに……。……どうして来たんだい?」
 眉を顰めているのは、ジタンが来たことに加えて、彼の頬に傷があるからだ。先ほど少年は、勢いよくこの中央部に飛び出したがために、上手く受け身もとれず無様に落下してしまった。その際、どこかでぶつけたのだろう。大したことのない怪我ではあるが、クジャからしてみれば危険を冒してまで何をしているのだ、といっそう訝しく思わせるには充分である。逃がそうとしたのがクジャであるなら、尚更だ。
 少年は肩を竦める。腕組みをして、静かに笑んでクジャを見下ろした。
「誰かを助けるのに、理由がいるかい?」
「………」
 さも当然、と言い放つジタンを、クジャはただ見つめた。
 驚きはなかった。彼がそう答えることなど、わかっていた。だから、逃げろと幾度も言ったところで、彼がここまでやってきてしまうことも、何となく。意味が分からないと思うけれど、それでこそジタンだとも思う。
「………他の仲間は、脱出したんだね」
 一つだけ驚いたことといえば、彼が一人きりだったということだ。彼の仲間もまた、よく似た思考をしている。ジタンが、暴走を始めたイーファの樹の中に行くなどといえば、他の仲間もまたついてくると言い張るだろうと思っていたのだ。
 ジタンが拒否したのだろうか、と考える。
「ん? ああ……やっぱりお前の仕業だったのか」
 永遠の闇、と名乗った絶望の怪物に決定的な打撃を与えてすぐ、どうしてかジタン達はイーファの樹の前のところにまでワープさせられた。仲間の誰もがそのような魔法は使えなかったので、一体どうしてここまで来ることができたのかは分からなかった。イーファの樹から外へと逃がしたのは、深手を負ったクジャだったのだ。
「フフフ……それは良かった……」
 逃がしたのに皆死んでしまっては、数少ない魔力を絞り出した意味もないというものだ。
 隣に座った少年は、奇妙な静けさに満ちているイーファの樹の体内を見上げる。
「次は俺たちが逃げる番だ。早くしなきゃマズイぜ」
 クジャは、横目でジタンを見やった。この少年は、一体何を言っているのだろう。呆れを通りこえて、笑いさえこみあげてくる。
 彼は分かっているのだろうか。助けようとしている相手は、つい先ほどまで、皆を巻き添えにして死のうとした非情な男であること。少年が心から愛しいと思った女の母親をたぶらかし、女に声が出なくなるほどの傷を心に負わせたこと。
「君たちを道連れにしようとした僕に、生きる資格なんてないよ……。僕は、全てに負けた……この世にはいらない存在なのさ……」
 死が近づいているのを感じているからか、酷く弱弱しい声になった。
 これが本当のクジャなのだろうか。ジタンはそんなことを思う。自責の念に駆られて、つい先ほどまで殺そうとした者たちを残り少ない魔力で救い、いざ助けに来てみれば見捨てろと口にする。
 もし。そう、パンデモニウムで自暴自棄に陥った際、心の中に浮かんだことを、少年は改めて思う。もし、自分がクジャの立場だったなら? 本命でなく、単なる実験体としての「特別」なジェノムとして生まれたのが、クジャではなく自分であったら? そして、全く同じように世界の破壊を望み、同じようなことをしてきたとしたら?
 ―――思っただろうなぁ。
 遠くを、見つめた。きっとクジャが今の自分と同じ行動を起こして、こうして悪行ばかりであったジタンを助けに来たら、見捨てろというだろう。同じように、この世にいらない存在だと、呟いたろう。テラまでやってきて、自分が元々はガイアを破壊するための死神として生まれた存在だということを知ったときでさえ、自分は仲間から離れようとしたのだ。一緒にいる資格などないと、思ったのだから。
「この世にいらない存在なんてないさ……」
 今の自分がそう言い切れるのは、ガイアで育ったから。バクーに拾われたから。タンタラスに出会ったから。ガーネットに出会ったから。……仲間と共に、過ごしたから。
 全て、教えてもらったこと。決して、自分で気付いたことじゃない。周りが気付かせてくれたこと。だから、逆の立場だったらきっと、自分はこの考え方など持たなかったし、クジャはきっと、この考え方を持つことができた。
 それだけ。ただ、それだけのことなのだ。
「それに、お前は俺に逃げろと言ってくれたじゃないか」
「……」
 ふう、と息が漏れる音がする。クジャが溜息を吐いたのだろう。しかしジタンは、彼に視線を向けることなく上を見ていた。
「キミたちとの戦いに敗れて、僕は失うものがなくなったんだ……」
 かすれた声が耳に届く。しかし、その雰囲気からは、少年に向けられているものではないということが容易に分かった。だから、彼は無言で、勝手に兄自身に対する言葉に耳を傾ける。
「その時、生きるということの意味が少しわかったような気がしたんだ……」
 嗚呼、とジタンは嘆息する。
 彼も教えてもらったのだなと思った。あんな戦いの中でも、自分の周りにいる彼らは、訴えかける何かを持っている。そんな仲間を持てたことを、誇りに思った。
 はっ、とまた空気が抜ける音がした。今度の溜息は、どこか自嘲めいたものだった。
「フフフ……。でも、遅すぎたようだね……」
「!?」
 その言葉が言い切ると同時に、隣から気配というものが突然希薄になったことを感じたジタンは、慌てて首を回す。隣で体を横たえていたクジャは、先ほどまで開いていた瞼を閉じて、力なく頭を傾けていた。一瞬にして生気が薄れていくのを感じ、少年は目を見開く。
「おいっ! クジャ! 寝てる場合じゃねえだろ!」
 声をかけても、重く閉じられた瞼はピクリとも動かない。まさかここまで衰弱しているとは思わなかった。喋っている最中に意識を飛ばし、死を間近に感じてしまうほどだとは思っていなかった。背負っていけばいい。そう思っていた。突然すぎて、一瞬頭が混乱する。
 そんなとき、ふいに轟音が響き渡った。
「!?」
 先ほどまでひとまず落ち着いていたはずのイーファの樹が、再び暴走し始めたらしい。そもそもジタンはイーファの樹の根の猛攻をかいくぐってここまで入ってきただけだ。暴走は止まったわけではない。
 自分の通ってきた隙間から、大量の根の塊が飛び出してくる。それは、真っ直ぐにこちらに向かってきていた。
 ―――まずい。
 頭の端で、そんなことを思う。かと言って、クジャに目をやれば彼は依然意識を飛ばしたままだ。生きているのかさえ怪しいほどに、顔面蒼白である。とっさに彼を抱えて逃げるにも、間に合うわけがない。きっとクジャは言うだろう。一人ならかわせるだろう、と。だから見捨ててさっさと逃げろ、と。自分は生きている価値などないから。でも、キミにはあるから、と。

 ああそうだ。
 黒魔導士たちを残酷に扱い、町を破壊し、尊い命を犠牲にし、多くを傷つけ、苦しめ、悲しませたのはお前だ。お前のしたことは許されることじゃない。何をして償おうにも、お前は大きすぎる罪を犯した。たとえ俺がお前を許しても、世界はお前を許さないさ。逆に、世界がお前を許しても、俺はお前を許さないさ。

 だからなんだ!!!!
 気付けば少年は、クジャを庇うように覆いかぶさっていた。多分、走馬灯のように駆け抜けた過去がある。それは全て、クジャのせいで傷つけられた自分たちと、大事なガイアにある全ての姿。しかしそんなことはどうでもいい。自分はこのジェノムを助けるために、ここまで来たのだ。面倒なことはあとで考えればいい。今は、彼を救うことだけを考える。
 否。考えなくとも、体が勝手にそのように動く。
 
 イーファの樹の根が容赦なく、ジタンとクジャに襲い掛かった。
 耳を突き抜けるような、地響きと、轟音。
 覆いかぶさったまま、クジャから微かな体温を感じて、

 まだ、生きている。そう思った。




「……………?」
 気を失っていたのだろうか。何が起きたのか、いまひとつ現状を理解できていなかった。ただ、妙だと思ったのは、どこにも痛みがないことだ。擦り傷のような微かな痛みすら、ない。痛みが強すぎて感覚が麻痺している、というわけでもなさそうだ。
 覆いかぶさった状態からゆっくりと体を起こし、あれ、と思う。痛みがないどころか、つい先ほどまで頬にあった傷が消えていた。クジャと話していたときは、まだあったはずだ。
「……どうなってんだ…?」
 試しに頬をごしごしこすってみたが、手の甲に血などつかないし、痛くもない。綺麗に怪我がなくなっている。
「……っ……!?」
 視線を巡らせてみて、思わずジタンは表情を強張らせた。視界に入ってきたのは、動きが止まっている――正確には、何故か根が不自然に自分たちをかわした妙な形に曲がったまま周囲に突き刺さっている状況であった。
「…根が……自分から、かわした……?」
 そんな馬鹿な。イーファの樹は、ガーランドが大昔に作った魔法樹であって、意思など持っていないはずだ。ジェノムの生態に反応して機能するものはいくつかあったものの、今にいたっては暴走していて正常に機能するとは思えない。大体、最初にジタンがここまでやってくるとき、彼はイーファの樹の根に猛攻を仕掛けられている。二人がジェノムだから根が自らかわした、とは到底考えられない。
 そのとき、先ほどまで疲労していた体が妙に軽くなっていることに気が付いた。永遠の闇と戦った後、すぐに仲間と離れたので、ガーネットやエーコからケアルをかけてもらう余裕がなかった。幾分体力が削られている中イーファの樹にまで戻ってきたのに、先ほどより少し調子が良い。尤も、だからと言って疲れていることに変わりはないのだが。
 ここで、ジタンはハッとする。この感覚は初めてのものではなかった。たしか、旅中でかなりの苦戦を強いられた際、エーコがとっさに唱えてくれた白魔法・リジェネとよく似ている。つまり、
「……こいつ……」
 未だに意識を取り戻さないクジャを見下ろし、苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
 クジャは、何が何でもジタンだけは地上へ帰すつもりだったのだろう。知らない間に、ジタンとクジャの周りには結界が張られていたのだ。だから、イーファの樹の根は彼らに直撃することはできず、結界に阻まれ、回避せざるを得なかった。そして、この結界内には恐らく、リジェネが唱えられている。ジタンの傷はいつの間にか回復していたのだ。
「バカじゃねぇのか……全然かっこよくねぇよ、クジャ…!」
 しかし、リジェネにも限界がある。瀕死状態の者に対しての回復能力は、まさに焼け石に水。そこそこの体力でここまでたどり着いたジタンには効果的に作用しても、クジャには作用しなかったのだ。
(どうする、どうする……焦るな、まだ間に合う)
 ポーションはない。フェニックスの尾も先ほどの闘いで使い果たした。エリクサーなどは勿論ない。加えて自分は魔法のセンスは皆無で、白魔法などもってのほか。ケアルさえ唱えられない。急いで運び出すべきなのかもしれないが、いくら何でもイーファの樹の奥の奥だ。運んでいる最中に死んでしまうかもしれない。いや、今もすでに死んでいるのかもしれないが、ジタンはまだ間に合うと信じて疑っていない。
 考えろ考えろ考えろ。
 一つだけ、少年にも自分以外の対象を救う能力がある。瀕死状態ならば仲間全員を自分一人の生命エネルギーで補うことは、その能力を用いればこれまでの経験上できたことだ。だが、今のクジャは「瀕死」というよりも「仮死」の状態に近い。恐らくほとんど死んだ状態だ。果たして能力を解放したところで、効き目があるだろうか。完全なる死、すなわち、魂が完全に肉体から離れた状態に使っても無意味なのだ。能力対象の復活は望めない。

 ―――ジタン キミは生きるんだ

 ここまでやってくる前に、ジェノムとしての精神が繋いだテレパシー。それを思い出して、ジタンは光を見たような錯覚に陥った。自分は、ジェノムだ。そしてこの男もジェノムだ。しかもお互いに、普通の「器」としてのジェノムよりも特別に作られている。それならば、生態がかなり似ているのではないだろうか。
 もしかしたら。もしかしたら、これまでの旅の仲間を回復させたように、完全復活とはいかないかもしれないけれど、クジャの息を吹き返すことだけは、できるかもしれない。

 ―――……おねがい、必ず帰ってきて……

 ガーネットの震えた声が、耳の奥で響く。
 この能力は、ジタン自身の命に大きなリスクがある。先ほど経験上仲間を回復させられた、と言ったものの、実際そう何度も使ったことがあるわけではない。初めてジタンがとっさに使った際には、戦闘がひと段落したときに仲間全員に怒声を浴びせられたからだ。周りが助かれば自分はどうでもいいとでも思ったのか、ふざけるな、と。挙句の果てに、ガーネットからは盛大な平手打ちを頂戴し、少年はよほどのことがない限り使わない、と約束したのだった。

 ……これを使ったら、ダガーとの約束は……

 ふと思い、いや、と首を振った。もう呼吸をしていないのかもしれない、クジャを見下ろし、口角を吊り上げる。

 俺たちは二人で、生きて、帰るんだ

 好きな女の子を泣かせたら男じゃない。そう独り言ちて、ジタンはクジャの傍らに跪く。表情を引き締め、右手を自身の胸にあてる。掌に、自分の心臓の鼓動を感じた。
 瞳を閉じて、精神集中を始める。
「……いくぜ……」

 ―――“ライフデジョン”








 ぼんやりとした視界に映るのは、嫌でも記憶に残る巨大な根の塊と、かすかな光。背中の下には草の感触。ゆっくりと状況把握をしてから、きょとん、と目を瞬かせた。
(………まだ生きている……?)
 そんな馬鹿なことがあるだろうか、と再度目を瞬かせるが、どうにもこうにも、地獄というにはあまりに見覚えのある景色だし、天国というにも同様だ。天国に逝けるなどと考えてはいないが。
 試しに指を動かしてみれば、案外あっけなく動いた。驚きのあまり忘れていた呼吸を再び再開してみれば、きちんと酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すことができる。目を一度閉じてみれば、自分の中で魔力が微量ながらも流れているのを感じる。この感覚は、完全に生きている状態のものだ。
(………?)
 そこで、今度は体を起こしてみようかと思ったのだが、そのときに自分の上に何かがのしかかっていることに気付いた。なんだろう、と無理矢理首だけもたげてみて、息を呑む。
「……ジタン……!!?」
「………は、………はっ………はっ………」
 焦点の定まらない瞳を半開きにしたまま、真っ青な顔でクジャの上に倒れこんでいたのは、紛れもないジタンだった。汗ばかりを流して、意識がほとんど霧散している。呼吸もままならない状態だった。
 無理矢理に体を起こして、しかし酷い眩暈を覚えたクジャは、己を叱咤する。震える手を伸ばして少年の肩に触れ、吐き気を堪えながら何とかジタンの中にある魔力を計測してみる。と同時に、青年は少年を睨みつけた。
「バカじゃないのかい…僕に、“ライフデジョン”を……使うなんて……!」
 眉間に皺を寄せ、すぐに精神集中に入る。クジャの手が、微かな光を放った。その光は微量ながらもジタンの中へと入っていき――
「っ…! げほ、げほっ! がっ……は、ぐぅ…!」
 クジャは口をおさえ、すぐにそのまま体を倒してしまう。とっさとはいえ、残りがほとんどないような魔力を無理矢理引き出した結果だ。しかし躊躇っている余裕はないと思って、熟考もせずに魔法を選んでしまった。まあ、“アレイズ”を唱えなかったのは、本能的に無理だと判断できたからだろう。
「はっ、あ………うぅ……げ………」
 頭を突き抜けるような痛みと、止まらない吐き気。魔力が完全に尽きたな、とクジャは思った。魔法の使い手である者が極度に魔力を消耗した際にはよく起こる現象だ。とはいえ、そのような事態はほとんど起こらないし、魔法の使い手は皆無意識のうちに注意しているので、目の当たりにすることは少ないであろうが。
「……大丈夫、か」
 吐息に辛うじて混ぜることができたような声が、耳に届く。咳を続けていたら気付かなかったかもしれないが、幸い丁度それを我慢していたので、聞こえた。
 口許を歪めて、眉を顰めながらジタンの方を見やる。こちらもこちらで意識が半ば朦朧とした様子で、顔面蒼白であることに変わりはない。
「……大丈夫、だよ……全く、ムチャ、するね……キミって、子は……」
 “ライフデジョン”は、ジタン自身の生命力を犠牲に、能力の発動対象を回復させるという自己犠牲呪文だ。やはり瀕死状態の域を越えてしまっていたと思われるクジャを全快にすることはさすがに無理であったようだが、思惑通り息を吹き返すことには成功したらしい。
「へ、へ………そう言う、お前だって…その、体で……レイズ……なんか、使いやがって…………ケアルで、良かった、のに……」
 震える体を必死に起こし、クジャの上からどくと、ジタンは目の前のジェノムのすぐ隣にバッタリと倒れこむ。深く呼吸を繰り返して、落ちそうになる瞼を必死に持ち上げる。今眠ったら、もう起きることができなくなりそうで怖かった。
「なんだい、初め…から、僕の魔法……頼りで…“ライフデジョン”を…使った、のかい」
「それ、くらいは……やって、くれっかな…って……」
「他力本願…だねぇ……ケアル……じゃ、足りないって……思ったんだ、よ……」
「たはは……そりゃ、どーも……」
 笑いごとじゃない、とクジャが顔をしかめれば、ジタンは微笑を返すだけだ。
「いや、にして、も……お互い……無理するわ………やっぱ、兄弟……かな……」
 笑いを含ませながらそんなことをジタンが言うので、
「はっ……、……よすんだ、ね……キミと、兄弟だなんて…考えると、虫唾が……走る…」
 わざとらしく不機嫌に、そう返した。
 そのあとも、適当に他愛もないことをお互い息も絶え絶えに言葉を交わし、暫しの間、どちらからともなく沈黙した。

 嗚呼……いけないね。
 霞む視界にイーファの根を映しながら、考えてしまう。
 あれだけ憎んでいて。あれだけ忌み嫌ったキミに兄弟と言われて。兄弟のように他愛もない会話をして。これまで、感じたことのない、温かさを感じて。どうしても。どうしても。どうしても、どこかで喜びを感じてしまっていて。
 自分から切り離したものが、今は近くにいてくれていることの嬉しさで泣いてしまいそうで。
 クジャはそっと、呟く。

「………無様だねぇ………」


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