猫の日











「大変だ!聞いてくれ、メルヒェン君にエリーゼ姫!我が兄弟がいきなり丸ごと猫になってしまったんだ!」

「……君はカニバリズムの赤王子。と言う事は、その抱いている猫がネクロフィリアの青王子かい。随分と大きい猫だが」

『やだ、なんで今日がにゃんにゃんの日だからって王子が猫になるのよ。どうせならメルの猫耳が見たかったわよ。需要読み間違ってるんじゃないの、策者』

「何を言うんだエリーゼ姫。僕らはどこに行っても引く手あまただ。見たまえ、兄弟のこの気品あるふさふさな毛!ピンとした尻尾!ピンク色の鼻!」

「にゃう!」

『うざっ、言葉までしゃべれなくなってるじゃない。猫が一人前に反論してんじゃないわよ。四つん這いになって自分の尻尾にでもじゃれてりゃいいわ』

「……しかしまあ、唐突だね。こちらに泣き付かれても助けようがないんだが」

「そんな!」

「にゃう!」

「君達のような規定外の存在なら何とかしてくれるんじゃないかと、耳や尻尾を触りたがる野薔薇や雪白姫の執拗な追跡を振り切り、群がってくる猫好きの人間達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、何とか兄弟を救出し、思い切って井戸に飛び込んだと言うのに!」

「にゃーにゃうにゃうにゃ、うにゃにゃーん!」

『お気の毒様。きゃははは!』

「蛙しかり、白鳥しかり、小鹿しかり。呪いで王子様が動物に姿を変えられると言うのも定番だ。意外に似合うし、別にそのままでいいんじゃないか?」

「なんて事だ……メルヒェン君まで僕らに冷たい、だと……!」

「うにゃぅ……!」

『ちょっと猫、さっきから煩いわよ。しかもメルはともかく私は冷たくて当然みたいなリアクション』

「だってその通りだろう?」

「にゅう?」

『明日起きたらあんたの国の鏡が軒並みアルミホイルになりますように』

「それにしてもどうすればいいんだ……!このままでは兄弟が猫として一生を終えてしまう……。雪白姫より長生きして、ゆくゆくは棺に入った妻を眺めながら幸福な老後を送りたいと夢見ていた善良な彼が……!」

「にゃふん……」

『あんたの国の棺が軒並みマッチ箱になりますように』

「まあまあエリーゼ。彼らが残念なのは今に始まった事じゃないだろう。それに今日が猫の日だから姿が変わってしまったとなれば、案外明日になればあっさり元に戻るんじゃないか?」

「……そんなものかな。だったらいいが」

「なーん」

『はいはい、解決解決』

「しかしまだ地上には戻れないよ。きっと兄弟のふわふわな毛を触ろうと待ち構えている人間がたくさんいるはずだ」

『何よ、その間うちに居座ろうっての?』

「そうしてもらえると有り難い」

「さすがに井戸の底に4人は狭いな……」

「何なら一発芸を披露して、君達への恩を笑いと言う形でお返しする事もやぶさかではないよ」

『一発芸ぇ?』

「Love注入☆とか」

「にゃん☆」

「……この人達は何を喚いているんだろう……気持ち悪い」

『遠い目をしないでメル!ああもう、パクリな上に時事ネタじゃないの。そう言うのは廃れた後が悲しいから嫌い!』

「おや、お気に召さないか。残念だな兄弟」

「にゃ」

『何度も言うけど残念なのはあんた達よ!』

「提案だが……いっそ一日、童話の猫として成りきってしまうのはどうだろう」

「と言うと?」

「なう?」

「ちょうど手元に『長靴を履いた猫』の原稿がある。これを利用して青王子に誰かの復讐を手伝ってもらおうじゃないか。幸い、随分と大きな猫になったようだから二足歩行も可能だろう」

『さすがメル、いい案ね!』

「なるほど、長靴か……。兄弟の服も一応持ってきているが、いつものブーツで大丈夫かい?」

「とりあえず履いてみてくれ」

「にゃん」

「…………」

『…………』

「…………」

「う、うにゅ」

「…………」

『…………』

「…………」

「なーん……」

「ブーツが……長すぎるみたいだね」

「ああ。ぶかぶかどころの騒ぎではないようだ……」

『前々から言おうと思ってたけど何なのよ、この超ロングブーツ。蒸れない訳?』

「僕ら、汗かかない!」

「にう!」

『歯を輝かせるな決め顔キモい。あと、王子様って言ったらカボチャパンツに白タイツでしょうが。本当に何なのよその超ロングブーツ』

「エリーゼ姫。確かに伝統は大切だ。歴代の王子達が作り上げた輝かしいイメージを捨てるのは僕らも心が痛む。だが、型に嵌まらない発想も時代を背負う者としては必要になるんだ。革命者とは辛いものだよ」

「……カボチャパンツ……猫にカボチャパンツ……」

「ん?どうしたメルヒェン君?」

『あらやだ、これはメルがいつになくときめいている表情!』

「エリーゼ。猫にカボチャパンツって絶対に可愛いと思うんだが……!」

『合点承知!王子、メルのお望みよ!さっさとカボチャパンツを用意して猫に履かせなさいよ!』

「ええっ、意外な所でときめくんだなメルヒェン君!僕らの性癖の事ばかり言えないぞ」

『黙って準備する!』

「は、はい!」

「にゃっ!」






〜しばらくお待ち下さい〜






「カボチャパンツがないと困っていたら、通りすがりの親切な悪魔が予備の衣装を貸してくれました。世の中捨てたものじゃないね、兄弟」

「にゃー」

『どうして持っていたのかしら』

「……なんて愛らしいんだ……!」

『まあ、メルが喜んでいるから別にいいけど』

「この不可思議な姿、まさに童話の世界……!本当になんて奇妙なんだ……!」

「にゃ、にゃふ」

「撫で回されても頑張れ兄弟。これも一泊の恩義に報いる為だ!」

「なーん!」

『ああ、猫と戯れるメルも超絶美味しいわ!カメラカメラ、っと。赤王子、あんたはそこで照明係ね』

「任せたまえ!」




END.
(2011.02.22)

日記ログをあさっていたら出てきた小話。こんなのも書いてたんだね私。


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