実のないお伽話




Roman&Marchen







 仕事の為に久々に馬を借りる事になったと聞いた時、乗馬好きなイヴェールは素直に早駆けができると喜んでいた。
 しかし馬に車を曳かせ、ひづめには布を被せて足音を消さなければいけないと聞くと今回の依頼が後ろ暗い物だと察したらしい。しかも穴鼠のように夜になってから墓を暴かなければならないと知ると、露骨な態度で十字架を切ってみせた。
「……つまり墓荒らしという訳か。素晴らしいよ、ローランサン。また随分と気高い仕事を貰ってきたね」
「お褒め頂き光栄だな。これでも町の汚水掃除と迷ったんだぜ。泥まみれになるか糞まみれになるかの違いだが、どちらにせよ食いっぱぐれるよりはマシだろ?」
「もう少し仕事を選んでくれと言いたい所だけど――」
 イヴェールはテーブルに置いてある痩せた財布へ視線を投げかけ、宿屋への支払いにすら恐々としている現実に肩を竦める。このままでは彼の大事にしている何冊かの本を売り払う事になるのだから、信心ぶってみせた所で結果は明白。
「確かに食いっぱぐれるよりはマシだね」
 と、あっさり嫌味を引っ込めた。ローランサンは片眉を上げて相方の選択を祝福する。
 人間らしくて結構だ。誰だって死んだ者の尊厳より生きている自分の腹具合を重視する。

 犯行当日。指示された墓地では昼に葬儀が行われたらしく、地面には掘り返したばかりの土の匂いと参列者の足跡が無数に残っていた。
 二人は古ぼけた馬車を曳いて裏門に辿り着き、墓守へ袖の下を渡した。驚くほど年を取った墓守の小男は、次の鐘が鳴るまでは目を瞑ろうと言い渡した。ただし鐘が鳴ったら自分の仕事をする、と。
 ローランサンは横目で礼拝堂の時計を確認する。残り時間は二十分少々。それまでは見逃してもらえるらしい。
「旦那方、鐘が鳴ったら必ず出てきてくだせぇ」
 墓守は執拗に繰り返した。次の鐘が鳴ったら誰も入れない決まりになっている、そうしなきゃならないんだから、と。
 二人は追加分の小銭を支払って墓守の機嫌を取ると、馬車を敷地内に入れていいとの許可を勝ち取り、砂利道の中を静かに進んでいった。葬儀用の礼拝堂や納骨堂を通り過ぎて墓石の並ぶ区域に出ると、荷台からシャベルや麻袋、覆いのつけたカンテラなど最小限の道具を引っ張り出して脇に抱え込み、そそくさと馬を下りる。空には雲も出ていたが、満月のせいか頭上は滑らかな銀のように淡く輝いていた。二人はざっと墓地を見て回る。
 目的の物は西にあるサンザシの茂みのすぐ隣にあった。若い娘の墓である。墓碑銘には『彼女は天使だった。そして天使としてここに眠る』と言う文句が刻まれていた。
「埋葬されたばかりなのに掘り返すなんて、胸が痛むな」
 喋っていた方が罪悪感が薄れるのだろう。イヴェールが複雑そうに口元を歪め、墓碑銘を小さく音読した。
「僕なら安眠妨害だって怒り出すところだ。ちっとも休めやしない」
「依頼主はこの子の父親なんだぜ。家族に起こされるなんざ、娘の方だって慣れっこだろうよ」
「そうだといいけどね。世間体があるから葬儀は挙げなきゃならないけど、娘の遺体は手元に置いておきたいだなんて……感動的なのか悪趣味なのか、ちょっと判断に迷う話だな」
「金をくれるなら俺はどっちでも歓迎だけど」
「ああ、言うと思った」
 二人は地面に荷物を置いてシャベルを持つと、時間を気にしながら墓を掘り返し始めた。
 葬儀が行われたのは今日の昼。掘ったばかりの土はふかふかと柔らかく、これなら余裕を持って時間内に出て行けるだろう。イヴェールは夜に仕事をする際は月光を弾きやすい髪を隠す為、決まって帽子を被るようにしていた。だが押し込んだ後ろ髪がほつれて作業をしている間に零れてくるので、何度も邪魔そうに肩口から払い除けている。
 それほど時間を掛けずして、土の中から棺が現れた。息を荒くしたイヴェールが立てかけたシャベルに体を預けて休んでいる間、ローランサンは汚れた棺の蓋を探り当てて、隙間にかなてこを押し込む。力を込めると蓋は大きく軋み、ぎしぎしと耳障りな音を立てた。何度か場所を変えながら錠を壊して釘を引っこ抜くと、ようやく封が崩れる。
「……開いた?」
 頭上からイヴェールがランタンを掲げ、被せてあった黒い覆い布をめくった。漏れ出る光が手元を照らす。二人は墓穴を覗き、死者に恨まれないよう十字を切った。いくら親族からの頼みとは言え、諸手を上げて誇れる仕事ではない。
 暴かれた棺の中にはほっそりとした若い娘が指を組んで横たわっていた。天使のようだと言う墓碑銘の通り、生前はさぞ清らかな少女だったのだろう。豊かな黄金の髪が波打って広がっている。しかし魂が飛び去った後のどうしようもない安っぽさは拭いきれず、人間を真似た不気味な模造品のように見える。副葬品なのだろう。足元に本と装飾品、そして動物の毛皮を縫い合わせた外套が詰められていた。
 想像していたような酷い腐臭はしない。代わりに半ば朽ちかけた、棺に詰められた花の香りがむっと漂ってくる。
「……随分と綺麗な遺体だね。死因は何だったんだろう」
 痛ましげにしていたイヴェールが、口元に手を当てて恐る恐る少女の死体を検分し始めた。
「病気かな。目に見える外傷はないみたいだし」
「さあな、聞かなかった。感染病じゃなきゃいいけど。剥いで調べたいか?」
「……遠慮する。女性の服を無断で脱がせるのは信条じゃない」
 二人は用意していた麻袋を広げ、死体を中に詰め込んだ。華奢な少女とは言え意識のなくなった肉塊は扱いにくく、手足はぶらぶらと勝手な方向に揺れ動き、上手く袋に収まってくれない。見かねたイヴェールが束ねるようにして細い腕を胴に添え、副葬品の毛皮で少女の全身を包み込むと、丁寧に袋の奥へと押し込んだ。
 ローランサンは重たくなった袋を肩に担ぐ。「泥のように眠る」と言う表現があるが、あれは正しい。そうして同時に「眠るように死ぬ」と言う表現もまた正しい。死んだ人間は泥のように不安定で、しっかり担がないと地面に転がり落ちてしまう。
 ローランサンが麻袋を馬車の荷台に放り込みに行く間、イヴェールが棺を閉じて元の状態に戻し、仕事の痕跡を消す役割をこなしてくれた。あらかじめ下に布を敷き、その上に土を積んでいたので、布ごと引っ張っれば土が崩れてシャベルを使うよりも手早く穴を埋め直す事ができる。副葬品に興味を惹かれたものの、荷物を増やすのは賢明ではないと手を出さなかった。最後に自分達の首尾を確認する為に周囲をぐるりと見渡し、再びランタンに覆いを被せると、荷物を掻き集めて馬車まで急ぐ。
 イヴェールは手早く御者台に座り、草を食んでいた馬をたしなめながら手綱を握った。荷台から戻ったローランサンも隣に滑り込む。
 その時、かーん、と空気が重く震えた。礼拝堂の鐘が真夜中を告げ始めたのだ。
「ちょうど時間だね」
 イヴェールの声に釣られてローランサンも顔を上げ、荘厳な音色に耳を傾ける。一段落だと口笛を吹きたい気分だったが、鐘の音に横っ面を引っぱたかれたような気持ちになって、ふと口をつぐんだ。
 かーん、かーん、かーん……。
 鳴り響く音は浮ついた心を押さえつける奇妙な迫力があった。青銅の鐘だろう。頭の中にまで木霊し、立ちくらみにも似た感覚を呼び起こしてくる。

「……彼女をどこに連れて行くのかな」

 鐘の音が鳴り終わると同時に、男の声がした。墓守の小男ではない。もっと若々しく官能的な声だ。
 イヴェールは罠を警戒して咄嗟に手綱を引き、ローランサンも剣の柄に手を掛ける。
 どこから見ていたのだろう。声の主は霊廟の一つに優雅に腰掛けていた。
 墓地で見かけるには不釣合いな、きっちりとした正装をまとっている。艶のある漆黒の衣装は巨大な蝙蝠が羽を折りたたむ姿を彷彿とさせた。長い前髪が無造作に頬へと零れ落ち、眼窩の窪みは月明かりを受けて黒々とした影を落としている。おかげで男の顔は仮面をつけたように、鼻から上を闇で覆い隠されていた。蝋のように白い顎と口元だけが際立っている。
「誰だ、あんた――連れて行ったら何か文句でも?」
 まずい、現場を見られた。ローランサンは声に焦りが出ないよう気をつけながら高圧的に尋ねる。下手をすれば始末しなければならない。イヴェールも隣で固唾を呑み、事の成り行きを見守っていた。
 だが二人の緊迫感とは反対に男はゆるりと首を傾げただけで答えない。まるで散歩中に雲間から思いがけず珍しい鳥の声が聞こえたから姿を確かめてみただけなんだ、とでも言い出しそうな、穏やかな対応だった。こちらに興味があるのかないのかはっきりしない。くつろいだ様子で前かがみになり、組んだ膝の上に頬杖をついて二人をじっと見つめている。
 何者だろう。服装からしても同業者には見えない。鐘が鳴ったら誰も入れない決まりだと墓守も口を酸っぱくして言っていた以上、そうそう多くの人間を敷地には招き入れないはずだ。第一、あの霊廟には先程まで人影などなかったはずなのに。
「……毒」
 やがて男が呟いた。
「何?」
「娘の死因が気になっていただろう。毒による自殺――口の匂いを嗅いでみるといい。花の匂いで誤魔化したつもりだろうが、時間が経って妙な匂いがしているはずだ」
 彼は囁いた。
「彼女の母親は幼い頃に亡くなってね。母親は死に際、夫と『自分より美しくない女とは再婚しないでくれ』と約束したんだそうだ。それで彼は長い間ずっと一人身でいたんだが、娘がいつしか母親にそっくりの美しい女になったと気付き、これこそが求める相手だと結婚しようとする。娘は慌てて逃げ出したんだが、召使に扮しているところを見つかり、遂に父親と臥所を共にする事になった。その罪深さに怯えた彼女は戸棚から毒を取り出し、そのまま――」
 男は無言で薄い唇を歪ませる。笑ったようだった。
 ローランサンは薄気味悪さを覚えながら剣の柄を握り直し、いつ斬りかかってもいいように掌を乾かす。相手の意図が読めない事が何よりも焦燥を煽った。
 何だろう、この会話は。俺達をどうしたい?
 男の強い視線を感じる。前髪で覆い隠されているのに、彼がどこを見ているのか圧力として感じる事ができた。皮膚が緊張する。関わるなと本能が訴えかけていた。
 ちらりと隣を確認する。腹の探り合いこそ機転が利くイヴェールの出番だろうに、彼は尚も黙り込んで男を凝視していた。隙を見て馬を走らせてしまえと目配せしても、イヴェールは雰囲気に飲まれているようで気付いてくれない。ローランサンは仕方なく男に話しかけた。
「へえ、近親婚の上に自殺とはね。随分詳しいんだな。この娘の縁者か何か?」
 男は刷いた笑みを口元から消し去る。
「まさか。初対面だよ」
「じゃあ何でそんな事を知ってるんだ。まさか俺達を足止めする作り話なのか?」
「作り話ね……そう言えば王子はともかく、盗賊の出てくる話もどこかに――いや」
 男は前触れもなく黙り込む。今度は別の雲間から鳥の歌声を聞きつけて、興味の軸がぶれたような仕草だった。首を横に回し、微かに唇を引き結ぶ。ふっと視線の力も弱まった。首の後ろで結ばれた長髪が男の動きを追い、やんわりと緩い弧を描く。
 その時、ようやくイヴェールが言葉を発した。
「どうしたいんだ、君は。彼女を取り戻したいのか?」
 彼の目はまっすぐに霊廟に座る男に向けられている。警戒しているのだろう。声が硬い。その時初めて、ローランサンは目の前の奇妙な男と相方の声が不思議と似通っている事に気付いた。そう言えば、背格好や物腰も近いところがある。
 イヴェールの呼び掛けに男がこちらを向いた。しかし先程のように強い圧力は感じない。
「……いや、父親の元に連れて行ってくれ。その方が都合がいい」
 邪魔をする気はないと軽く両手を上げ、音もなく男が姿勢を正した。間髪をいれずにイヴェールが手綱を振るう。
 逃げ出すなら今だった。馬が走り出し、車輪がぎしぎしと砂利を噛む。ローランサンはバランスを崩しかけて御者台の縁にしがみついた。
 先程の無言の際、どう馬を誘導するか考えていたのかもしれない。イヴェールの手綱捌きは素早く正確だった。視界の端で男の口元が小さく吊り上がった気がしたが、それも錯覚だったのかもしれない。霊廟は遠ざかり、あっと言う間に背後の闇に塗り潰されていく。
 門に着けば、遅かったなと墓守が咎めるように言った。鐘が鳴っちまったじゃないか、本当なら誰も入れちゃいかんのに、と。その口調から墓守があの男の存在を知らない事に気付いたが、二人はそれを告げず、足早に墓地を去る事を優先した。門を潜って田舎道に出ると、人気のない川沿いを選んで依頼主の元へと急ぐ。
「何だったんだ、あいつ」
「さあね」
 ローランサンの問いに、イヴェールは感情を押し殺した声で素っ気なく応じた。
「でも夜中に会いたい人種じゃないな。彼、びしょ濡れだったんだ」
「……は?」
「気付かなかったのか?髪も服もべったり濡れていたよ。雨でもないのに、どこで濡れてきたんだろう」
 あんな所で、とイヴェールはぎこちなく付け加える。さすがにローランサンも気味が悪くなった。思わず背後を振り返る。あの男が追ってきているのではないかと根拠のない恐怖が湧きあがったが、当然の事ながら夜道に人影はなく、墓場の周囲に生えていた背の高い糸杉の木さえも遥か後方に過ぎ去っていた。
 依頼主の屋敷は川の対岸にある。橋まで迂回する為に牧草地を越えた二人は、ほぼ無言で夜道を駆けて行った。しばらくして大袈裟な様式の屋敷へ辿り着き、イヴェールが裏戸の横に垂れた紐を引っ張ると、呼び鈴の鈍い音色が扉越しに響き渡るのが聞こえた。
 待ちかねていたのだろう。ほとんど待たされる事もなく壮年の男が現れた。
 墓場の男の言い分を信じるなら、実の娘と禁忌を犯した父親である。灰褐色の髪と口髭が目に付くくらいで、取り立てて変わった所は見受けられない。毛皮にくるんだ死体をローランサンが馬車から下ろすと、父親はそれを大事そうにかき抱き、報酬の入った布袋を渡した。事務的なやりとりを済ませて二人は逃げるように馬車へと戻ったが、去り際、さり気なくイヴェールが尋ねる。
「娘さんのご遺体はどうするおつもりですか?」
 父親は神妙に首を振り、いつでも墓を眺める事ができる屋敷の中庭に弔うつもりだと答えた。体が腐らぬうちは美しいドレスを着せて、夜毎に話しかけよう。いざ土に返す時は絹の布で包んでやり、墓標には花を絶やさすよう女中達に毎朝摘みに行かせよう、と。
 わざわざこんな労力をかけて執着しておきながら、果たしてそれだけで済むのかとローランサンには少々疑問だったが、中途半端な道徳心で口を出し、他人の罪まで背負い込むような真似はご法度である。娘の死体を観賞しようが犯そうが、あるいはもっと変質的な扱いをしようが、それは依頼主の自由だ。二人は引き下がり、借りた馬車を返す為に再び馬を走らせた。

 しかし不条理が横行する世界にも、それなりの報いは降りかかるものらしい。翌日、横丁に食料を買いに出ていたイヴェールは、苦笑混じりに漏れ聞いた噂を報告してくれた。何故か手には花束を抱えている。
「あの父親、どうも死んだらしいね。しかも食い殺されたんだって」
 どうやら二人が遺体を運び込んだその日の夜、飢えた野犬が次々と屋敷に入り込んだらしい。自室にいた父親は鋭い牙にかかって八つ裂きにされ、原型が分からないほど無残に食い散らかされていた。あちこちに散らばる野犬の毛に混じり、副葬品だった毛皮の外套もばらばらになって床に散乱していたが、娘の体は食われるでもなく手付かずで傍らに横たわっており、その唇は惨劇の血を浴びて艶やかな薔薇色に染まっていたと言う。まるで彼女自身が父親を食べ終えた後のように。
「周りも父親の奇行には薄々勘付いていたみたいだね。実の子供に手を出した罰だろうって、町でも随分と噂になっていたよ。だから娘が墓場から抜け出して屋敷まで来たんだろう、って」
「……すげぇ話だな。世間はあのお嬢さんが父親を食い殺したって見解でまかり通っている訳か。俺達も恨まれてないといいけどな」
「後で墓参りに行こう。改めて親戚が葬儀を挙げるそうだから」
 最初こそ驚いたものの妙に納得のいく結末の気がして、ローランサンは何でもない調子で会話を続けた。イヴェールも紙袋からパンと調理済みの惣菜肉を取り出し、主の恵みに感謝しながら順繰りにテーブルに並べていく。彼はまた墓前に添える予定で買ってきた花束を丁重に花瓶へ活けていた。
「あの父親は忘れていたんだよ。亡霊よりも生きている人間の方が怖いとはよく言うけれど、死人だって元は生きていた人間だろう。どっちにしろ恨みは買うものじゃないのに、調子に乗りすぎたんだ」
「結局、あの墓場の男も関わってたんじゃないのか?死体を持っていった方が都合がいいからって俺達を止めなかったし。もしかしたら裏で手を回して、屋敷に野犬をけしかけたりとか」
「どうだろう……。でも確かに僕達も利用されたのかもしれないな。ちょっとタイミングが良すぎる」
 二人はそれぞれ物思いに耽ったが、支度の済んだ食卓を前に考える事を止めた。
「まあ、深入りするつもりもないし、俺は金が入ったならどっちでもいいけど」
「言うと思ったよ」
 ジャムを丹念に塗りながらイヴェールが笑った。ローランサンも歯を使って緩んだコルクを抜き、節約の為にちびちびと飲み進めていたワインを思い切ってグラスへと注ぎ分ける。血みどろの惨劇も仕事終わりの乾杯を妨げる事はできない。これくらいで食欲を失っていては盗賊としてやっていけないのだ。
 生きているだけで腹は減る。死者の事情にばかり付き合っている暇はない。オカルト話も呪われた宝石だけで充分に事足りている。墓場に出没する亡霊のような男も、物騒な復讐劇も、二人にとってはひとまず別世界のお伽話なのだった。







END.
(2011.01.19)

物語と童話のコラボ。井戸を通じてメルヒがひょっこりフランスへ出張してきたのだと思ってくだされば幸いです。

死んだ娘のエピソードは一応グリム童話の『千匹皮』を下敷きにしてますが、かなり省いてアレンジしています。結末もグリム版では父親と娘が結ばれてめでたしめでたしになるのですが、娘が別の男と結婚して父親を八つ裂きにするバージョンもあり、今回は後者を参考にしました。

ところで盗賊が去った後の墓場では、メルヒとエリーゼが

『な〜に、あの野蛮な態度? 偉そうにしちゃって。隠れていて正解だったわ!』

「ところでエリーゼ、盗賊が出てくる童話はあったかな。どうも思い出せなくて」

『ほら、あれはどう? 花嫁に塩と胡椒を掛けて食べようとする下品な強盗の話! きゃはは!』

「うーん、食人の話は足りてるんだけどな……」

とか言う会話を繰り広げていた事でしょう。エリーゼも出したかったんですが世界観がとんでもなくホラーな事になりそうなので、今回は隠れていてもらいました。ごめんね。


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