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ページを捲るたびにドキドキとワクワクが溢れ出す。彼女、ないこは何度も何度もその漫画を読み返していた。
大好きな物語。大好きなキャラクターたち。
パラパラパラパラ、とページをまた捲る。しかし、ないこの指はとあるページでぴたりと止まる。
そこには腹部からたくさんの血液を流して倒れる青年。その横には黒い文字で『花京院典明 死亡。』と書かれていた。

「‥‥‥花京院」

彼女はそう呟いたあと、他の巻を手に取りまたページを捲った。
腕だけを残し、消えた男。砂に塗れて眠る犬。

「アヴドゥル‥‥イギー‥‥」

‥‥生きてほしい。
純粋にそう思った。

「‥‥今日はもう寝よう」

やるせない気持ちで布団に入る。
彼らは漫画の中のキャラクターだ。自分に彼らを助けることはできない。
でも、もし‥‥もし助けることができるなら。その時は‥‥。
そんなことを思いながらないこは眠りについた。





‥‥夢を見ている。そう感じることができる時が稀にある。
私は今、その稀に遭遇していた。
暗い闇の世界にふわふわと浮く自分。不思議と心地よかった。
でもどうせ夢を見るならジョジョキャラが出る夢が良かったな〜!なんて思った。
その時だった。

「ぐふッ‥‥」

腹部に突然の痛み。
驚いて自分の腹を見ると矢がブスリと突き刺さっていた。
その矢はどこかで見覚えがあったが、私はあまりのショックで気を失った‥‥。







「血圧、心肺ともに正常値」

「腹部の傷の回復も順調です」

‥‥声が聞こえる。何人かの女の人の声。知らない人のようだ。
ここはどこだろう。そう思ってゆっくり目を開けた。
すると目の前には白い天井と、白衣を着た数人の人たちが。

「は、博士。彼女が目覚めました!」

バタバタと慌て出す人たち。ここはどこかな。病院?
思えば何故か腹部が痛む。そういえば私は‥‥夢でなにか‥‥あれ、なんだっけ。

「目が覚めたようですね」

突然声をかけられる。ふと横を見るとこれまた白衣を着た知らないおじさんがそこにいた。

「喋れますか?」

「は、はい」

久しぶりに声を発したような気がする。私の声はしゃっくりの時のように上ずった。恥ずかしい。

「あなた、自分の名前が分かりますか?」

「はい‥‥名賀 ないこです」

「ないこさん、あなたはここ一週間ずっと眠っていたんですよ」

「いっ、一週間」

私が‥?そんなに?
それだけ寝ていたということはつまり、生死を彷徨っていたに等しい。
まさか自分がそんなことに‥‥きっと親も心配しただろう。申し訳なくなった。

「あの‥‥ここはどこの病院ですかね?」

「病院?違いますよ」

「へ?」

「ここはスピードワゴン財団の研究所の1つです」

「は?」

「だからスピードワゴン財団の研きゅ「あ、はい。それは分かりました。」

分かったけど‥‥え?スピードワゴン財団?研究所?スピードワゴン?スピードワゴン?
お節介焼きのスピードワゴン?
クールに去るスピードワゴン?

「え、えええええッ‥‥って、いっだあああッ」

「ああ、そんなに暴れないでください。あなた矢かなにか鋭いものでお腹刺されたんですよ。傷開きますよ」

「それを早く言ってほしかったです‥‥」

いや待って。そんなことはいいんだ自分。
この人スピードワゴン財団って言ったよね。あのSPW財団だよね?
ジョナサン・ジョースターと共にディオを倒す旅をし、後に石油王となり死後も自ら設立した財団の力でジョースター家を支えるあの、あのSPW?
え、なに、まさか私ジョジョの世界にトリップしたの?ま、まさか〜そんな〜。

そんな思考がフル回転する中、さっきの白衣のおじさんに話しかけられる。

「実はあなたにお会いしてほしい方がいるのです」

「私に?」

「はい。名前は‥‥」

私はそこで確信する。

「名前は、ジョセフ・ジョースターです」

あ、私トリップしたわこれ。




数時間後。

私は驚きと感動を一度に感じていた。

「君が名賀 ないこじゃな?」

「は、はい!」

「ワシがジョセフ・ジョースターじゃ。よろしくな。」

「は、はい!」

嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。
いや‥‥本物だああああああッ
本物のジョセフだ!老ジョセフだ!
ああああああああああッ

私は興奮していた。
大好きな漫画のキャラクターが目の前にいる。
これほど感動することはない。

そう。私、ないこはどういうことかジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースの世界にトリップしたのだ。
先程の白衣のおじさんに私は空から落ちてきたことを教えられた。かなりの高所から落ちたように見えたにも関わらず私は腹部の傷以外無傷だった。不思議に思ったSPW財団は私を研究所で保護したそうだ。

「突然押しかけてすまんな。傷はもう大丈夫か?」

「はい、おかげさまで」

「それは良かった」

そう笑うジョセフの顔は皺があるもののとてつもなくイケメンだった。隠し子もできちゃうわけだ。
そんなことを思いながら目を横にやると他にも見覚えのある顔が。

「おお、紹介がまだじゃったな。彼の名はモハメド・アヴドゥル」

「よろしく。君がないこか」

こ、こっちも本物だーッ

「はい!よ、よろしくお願いします!」

また声が上ずってしまった。恥ずかしい‥‥。
そこで私は誤魔化すようにある疑問を口に出した。

「そ、それで、お二人は私になんの御用で‥‥」

「そうじゃ、それなんじゃがな‥‥」

その時。
ジョースターさんの腕に紫の茨。アヴドゥルさんの横には赤い鳥人間が立っていた。

「ないこ、これが見えるか?」

「み、見えます‥‥」

間違いない、本物だ。これが本物のスタンド‥‥。
私の反応に、ジョースターさんとアヴドゥルさんはお互い見つめあい、こくんと頷いた。

私はこの時まだ気づいていなかった。運命を変える私の戦いが、すでに始まっていることに。


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mae ato
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