06


 白や薄い茶色の石を、幾つも重ねた壁が見える。その中に、木製の小さな両開きの扉を見つけた。
 石壁に囲まれたオールコックの町の、すぐ傍に暗緑の森が広がっている。そこが、ダラムの森と呼ばれる場所だ。
 しかし、ソープステッドの住人から聞いたような、魔物の気配は感じない。それどころか、
 ソープステッドを出てから、一度も姿は愚か、魔力すら感じなかった。

「……魔物を、一匹も見ねぇなんてな」

 それがおかしいことは、リアトリスも分かっていた。魔物は本来、そこらに生息している。
 森やこうした草原の他、クロズリーのように、人気の無い廃村などにもいる。
 それが、一匹も見当たらないというのは、どうにもきな臭さを感じさせた。

 そのことに、何か引っかかりを覚えながらも、リアトリスは、オールコックの中へと続く扉の前に立つ。
 拳を握ると、二、三度扉を叩いた。しかし、返答は何もない。「そういえば」と、リアトリスはオボロから、どんな異変が起きているのかを、
 聞いていなかったことを思い出す。リアトリスが試しに扉を押し開けようとするが、びくともしなかった。
 内側から、閂がされているのだろう。ギルクォードもそうなのだ。

 壁の高さは、だいたい三、四メートル程だ。幸い、積まれた石は凸凹があるので、足掛かりにはなる。
 本当は良くないことだと思いながら、リアトリスはロープを取り出した。先端に鉤のついたそのロープを振り回し、
 壁の向こう側へと引っ掛ける。何度か引っ張り、強度を確認したところで、リアトリスは壁を登っていく。

 そうして、十分足らずで、オールコックの中へ足を踏み入れたリアトリスは、中がひっそりと静まり返っていることを知った。
 とても、人が暮らしているようには感じられない。童話の中から抜け出してきたかのような、小さな家が点々と続いている。
 しかし、人の気配は全くしない。閑静な、とはまた違う静けさが、辺り一辺を占めている。

 慎重に足を進めながら、リアトリスは周囲への警戒を怠らずにいた。土を踏み付ける、一人分の足音しか聞こえない。
 しばらく、静かな町の中を進んでいると、突如地面が崩落した。一瞬の浮遊感のあと、見えない何かに引っ張られるかのように、
 リアトリスは深い穴の中へ落ちてしまった。咄嗟に頭を守ったが、尻や腕などを強かに打ち付けてしまう。
 右腕を強打し、電流が走ったような鋭い痛みに、思わず呻いた。

「……ってぇ!」

 悪態を吐きながら身を起こし、リアトリスは自分が落ちてきた穴を見上げた。
 道具を駆使すれば、なんとか上がれそうだ。足掛かりになる場所を探そうと、穴の中を見渡した時。
 リアトリスは、土壁の一か所に、何処かへ繋がる横穴があることに気付いた。
 その穴の向こうから、魔力が漂ってきている。
――この感じは、群れか?

 リアトリスは左足に装着した拳銃を引き抜いた。いつでも発砲出来る状態にして、それを構えながら穴に近付く。
 穴の向こう側へ耳をそばだてる。特に、不審な音は聞こえてこない。

 リアトリスはしゃがみ込むと、その状態で穴を潜り、仄かに明るい穴の中を進んだ。やがて、開けた場所に出たリアトリスは、
 その場に大量の肉片が、転がっているのを見た。犬や鶏のような動物の頭や、骨までもが転がっている。

 土壁には、白くて大きな卵が付いていた。
 どれも割れていて、中から何かが孵化したのだろうということは、容易に見て取れる。
 夥しい量の魔力結晶が、周囲に散らばっており、ざっと見れば、それは卵の数と一致しているようにも思えたが、
 数が数なので分からない。漂ってきた魔力は、この放置された魔力結晶が原因らしい。
 どれも無色で、大した魔力は持っていなかったようだ。卵から孵った魔物のものだろう。

「……」

 卵とは別に、刃物で斬り付けたような跡が幾つも見られた。




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