05
次の日。魔法使いは、銀の髪飾りを売りに家を出ました。
魔法使いから命じられた仕事を大急ぎで終わらせて、お姫様は町中を走ります。
しかし、何処を探しても碧い宝石は見つかりませんでした。この小さな町では、宝石なんて高価なものは、
市場に出ないのです。大蛇も手伝ってくれましたが、結局一つも見つかりません。
翌朝、魔法使いが意地悪な顔で言いました。
「宝石は、見つからないみたいだね」
お姫様は悔しくなりました。魔法使いは、この町では碧い宝石が手に入らないことを、知っていたのです。
そして、お姫様が外出していることも知っていたのです。魔法使いは、最初から呪いを解くつもりなんて無かったのです。
その夜、悲しくてしくしく泣いているお姫様のもとへ、騎士が現れました。
「娘さん、どうか泣かないでください」
緑の目を濡らすお姫様に、騎士はゆっくりと微笑みました。
「あとは私に任せて、今日はもうお休みなさい」
翌朝。お姫様が身を起こすと、枕元に綺麗な碧い宝石が置いてありました。
お姫様は、それを持って魔法使いのもとへ向かいます。そして、魔法使いに宝石を手渡しました。
「これを、何処で手に入れた!」
怒ったように、大声を出す魔法使いに、お姫様は少し怖くなりました。
けれども、魔法使いに負けないように、大きな声で言い返します。
「それよりも、呪いを早く解いて頂戴!」
そう言うお姫様を見て、魔法使いは悔しそうな顔のまま、言いました。
「おまえがワシのお嫁さんになってくれたらね!」
意地悪で醜悪な魔法使いとお嫁さんになるなんて! と、お姫様は戸惑いました。
けれども、すぐに魔法使いに詰め寄りました。
「それで、本当に呪いを解いてくれるのね?」
「ああ、約束しよう」
それを聞いて、お姫様は決心しました。
「それなら、私はあなたのお嫁さんになるわ!」
これで騎士の呪いが解けるならと、お姫様は覚悟します。しかし、本当はとても嫌でした。
その夜、お姫様は騎士にお別れを言おうとしていました。けれども、騎士は一向に現れません。
待ち疲れて眠ってしまったお姫様は、扉が開く音を聞いて飛び起きました。扉を見れば、
廊下から傷だらけの騎士が入ってきます。
「ああ! 何処に行っていたの?」
駆け寄ったお姫様は、騎士が目を失っていることに気付きました。騎士は言いました。
昨晩、お姫様が眠った後で、こっそりと魔法使いの森に足を踏み入れたこと。森には、
碧い宝石を実らす木があるので、そこから一つ取ったこと。しかし、お姫様を手助けしていたことや、
森に足を踏み入れたことを魔法使いに知られたこと。森に足を踏み入れた罰として、
両目を奪われたことを言いました。
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