03
お姫様は、木々の中に足を踏み入れます。
「何処にいるの? 夜が怖いの」
「此処にいますよ。怖い時は、夜空の星を眺めなさい」
お姫様は、返ってくる声を聞き逃さないように、注意しながら追いかけます。
「何処にいるの? 寂しいの」
「此処にいますよ。寂しい時は歌うのです」
「何処にいるの? 不安なの」
「此処にいますよ。不安な時は楽しいことを考えましょう」
「何処にいるの? 傍にいて」
「此処にいますよ。すぐに、あなたの傍に向かいます」
何度かやりとりして、お姫様はもう一度聞きました。
「何処にいるの?」
けれども、返事はしません。もう一度大きな声を出しましたが、何処からも声は帰ってきません。
お姫様は急に、本当に怖くなりました。本当に寂しくなって、本当に不安になって、本当に傍にいて欲しくなりました。
夜の森はとても広く感じて、怖く感じます。
草を踏む音を聞いて、お姫様はその音の方向へ向かいました。大蛇かもしれないと思ったのです。
そうして飛び出したのは、森の中の開けた場所でした。
暗い夜空にはお月様が浮かんでいて、その光が地上に差し込んでいます。
そこにあの銀色の大蛇がいました。お姫様はほっとして、大蛇に駆け寄ろうとしました。
しかし、お姫様の目の前で、大蛇の姿がゆっくりと変わり始めました。静謐な光を浴びて、
大蛇はみるみるうちに、いつも助けてくれる騎士へと姿を変えていきます。いつも暗がりで分からなかったのですが、
騎士は黒檀のような髪をしていました。驚いたようにこちらを見つめる目は、
まるで宝石のような碧に染まっています。
目を丸くするお姫様に、騎士は自分のことを語りました。その騎士は昔、その強さと名声王国民に慕われていたそうです。
しかし、ある時。身に覚えのない罪により国を追われ、追い出される際、悪い魔法使いに、
日の出から日没まで大蛇になる呪いを掛けられたのだそうです。
「あなたの呪いを解く方法は無いの?」
お姫様が尋ねると、騎士は答えました。
「呪いを解くには、呪いを掛けた魔法使いに、解いて貰わなければなりません。
その魔法使いは今も恐らく、私の育った国にいるでしょう。けれども、その魔法使いはとても意地悪で、
我欲に塗れていますから、解いてはもらえませんよ」
騎士の秘密を知ったお姫様は、助けてくれたその恩を返す為。騎士を助けたいと、心から思いました。
そして、その強い願いに動かされた騎士も、お姫様と共に故郷へ向かいます。森を抜けて山を超え、
川を渡り、ようやく騎士の国に着きました。
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