君は僕の光の子 4日目 @
今日も朝から父の料理に舌鼓を打って、一日が始まった。
この数日間で、すっかり舌が贅沢になってしまったような気がする。
それもこれも、父の作るご飯が美味しすぎるからだ。
薄味だけれどもその分素材の味が豊かに舌に乗り、均等に切られた具材の噛みごたえもちょうど良い。
母の料理ももちろんとても美味しいけれど、和食中心の父のそれはまた違う風味がある。
ほんの少し前までこの味を知らなかったことが、とてももったいなく感じてしまうくらいだ。
月を離れて、早四日。
父と二人で過ごす時間も、気が付けばもう半分が過ぎていた。
(1)
朝ごはんを終え、食器をすべて洗浄機にセットすると、父はおもむろにパソコンを立ち上げて、ソファーに腰かけた。
珍しく目を保護するための眼鏡までかけて、いつも以上に真剣な様子だ。
今日一日、父はデスクワークに追われるつもりらしい。
昨日、動物園から帰ってきてから、何かに取りつかれるようにしてキーボードを叩いている。
あの、若手のパイロットたちとの会話に、何か触発されるものがあったのだろうか。
相変わらずルイにはわからない、難しい単語と計算を並べて、時々難しそうな顔をしている。
「……ねえ、昨日から、何をしているの?」
勇気を出して聞いてみた。
父はパソコン画面からは目を離さず、淡々とした口調で答える。
「今回の航行に関する軍への報告書だ。それと、新航路開拓学会へ提出する論文の執筆」
「……ふうん」
よどみなく動く指先には、ルイも感心せざるを得なかった。
正直、それがどういうものなのかよくわかっていなくても、器用だなぁ、と思う。
パイロットって、大変だ。
仕事中も休暇中も、いつも頭を働かせなければならないらしいから。
(私も、頑張らなきゃ)
視線を、父から自分の手元に戻し、ルイはタブレットの中、羅列する計算式を見て、よし、と気合を入れた。
(2)
「……もうこんな時間か」
父がパソコン画面に映る時計に目をやって、ぽつりとつぶやく。
集中していたルイもそこでぱっと顔を上げ、時計を見た。
もう昼食の時間だ。
そういえば、お腹もすいてきた。
「そろそろ……昼飯にするか?」
「あ、うん」
父はルイの答えを受けると、眼鏡を外して肩を軽く回した。
「何が食べたい?」
「特に……なんでもいいよ」
「……どちらにせよ、冷蔵庫にもあまりものがない。買いに行く必要があるな」
「そっか」
その言葉に、ルイもタブレットを閉じて、ぐっと伸びをした。
当たり前のように、一緒に買い物へ行こうと思って、立ち上がる。
「車を出そう。何を食べるのか、考えておけ」
「うん……わかった」
並んでリビングを出て、ルイははた、と気が付いた。
初めて二人で出かけたときに感じた息苦しさが、今では少しだけ薄くなっていることに。
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