慈雨を降らせ | ナノ




雨間
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あれから黒崎一護は学校に来なくなった。
乱菊さんや日番谷隊長、その他諸々いるが、誰一人として学校に来ちゃいない。
なら私もわざわざ学校に来なくても良かったんじゃないかと思う。
今も十番隊の二人はのんびりおサボりかなーと屋上に寝転がって目を瞑った。

黒崎が学校に来ようが来まいが勝手だが、おかしいのは彼の霊圧をこれぽっちも感じないのだ。
探しに出かけようとも思ったが、手掛かりがない。

ふと感じた虚の気配。
だがしかし死神たちは誰も動こうとしていなくて、額に青筋浮かべながら私は仕方なく重い腰を上げた。
頑張れ車谷、私も手伝ってやるから。

やっぱり義骸は窮屈で好きになれない。
抜け出た解放感でうきうきして、調子に乗って校庭をくるくる回りながら飛び跳ねて虚の霊圧を探って飛び立とうとすると、一つの視線。
確か黒崎の幼馴染だったと思う。
見られちゃしょうがない、人差し指を立てシーっと合図すると、彼女は目を見開いて、視線を教室の前へ戻した。
いい子だ。


空座町なんか任されちゃって車谷さんも大変だなと、まぁ所詮私には他人事なんだけど、同情した。
かれこれ三匹目の虚の忌々しい仮面を叩き割ったところで辺りを見回すと、やけに目を引く一軒の家。
なんてことはない普通の家なのだが、「黒崎診療所」と書かれたそれを見ると、なるほど!と手を打った。

黒崎の霊圧なんて塵ほどにも感じないが、覗くだけ覗いて行こう。
そう思って彼の家の2階の窓にへばりついて目を凝らすと、多分黒崎少年の部屋なんだろうが、誰もいなかった。
なら次はリビングか、と地面に足をつけてベランダから身を隠しながらひょっこり顔を出す。

「……馬鹿がいる。」

ヒゲを生やしたいい年したガタイが良いくせにルンルン気分で口笛吹きながら軽やかに掃除機をかけている、私には馴染み深いおっさんがそこにはいた。
窓の鍵は開けっぱなし。
人の家だが躊躇いなく窓を開けて中に上がり込んだ。

「アレ!?窓が勝手に開いたぞ、何だ何だ!?」
「わざとらしい芝居はいらないよ老け顔。」

見えてるくせに情けない顔して怯えた真似するもんだからその弁慶の泣き所に蹴りを一発入れると面白いくらいに転がって泣いた。
お茶目なのは昔と変わらないか。
散々泣いて喚いて、彼は目元の涙を可愛らしい仕草をしながら拭った。

「気持ち悪いぞ一心。」
「見ねえうちに生意気になったじゃねぇか。琥珀ちゃ」
「ちゃん付けするな。
お前が言うと犯罪臭がする。」
「見た目は大して変わらねぇのに可愛げがなくなったな。」

余計なお世話だ。
これでも私は背が伸びた。

まさかこいつが黒崎一護の父親とは思わなかった。
死神代行なんぞになれたのも納得がいくかも。
リビングを見回すと、ちゃんと掃除はされて部屋はきっちりしてるし、キッチンだって片付いてる。
へぇ、ちゃんと父親やってんだぁと、壁に目を向けたら、輝かしい笑顔で笑う巨大な女の人が。

「あんたこういう趣味だったわけ。」
「これでも愛妻家でね。」
「ふぅーん。…綺麗な人じゃん。」
「自慢の嫁だからな。」

気の緩む、父親のあたたかさがそこには深く宿っていた。

「お前の探し物は見つかったのか?」

一心と会わなくなって20年以上も経つのに、そんな昔のことを覚えているのか。
昔から適当なところはあったがよく周りに気を配る人だった。
…変なお節介は直してほしかったけど。

「さぁね。
そんな物とっくの昔に見つかるはずないのかも。」

手掛かりなんか一つもありゃしない。
浦原喜助に教えてもらおうとしても、やつは口を閉ざすばかりだった。
一番知ってるのはやつだろうに。

「苦労してるな。」

何だよその意味ありげな笑みは。
お前まで知ってることがあって黙ってるなら許さないぞ、老け顔。


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