双龍の王 | ナノ



共に哭く
3/3


城の廊下を歩いていたスウォンは、ふと足を止めた。
父に連れられて緋龍城に来ると、スウォンはいつもこの国の姫であるヨナと、風の部族のハクの幼馴染同士で遊んでいたものだ。そう、丁度この庭。

思い返すかつての平穏な日々。日差しの中で笑い合う少年少女の姿を脳裏に描いては消した。ちがう、あの日々の中にだって、影は常に潜んでいたのだ。自分たちのすぐ隣で。

ユタ。

その少年は、気がつくと既に自分たちと共にいた。一歩引いた国王の背後に、感情をうつさない瞳で立ち、いつだって小さな腰には剣をさげていたのを覚えている。彼は国王がいる時も、国王がいない時も、陽の当たらない影に身を潜めて、自分たちを見ていた。

あの子は誰?

当時のスウォンたちの問いに、答えてくれる者はいなかった。ヨナさえも、父上に話しかけてはいけない、と咎められていたらしい。あの子は家族を亡くし、心に傷を負っているのだからそっとしてあげなさい…と、その嘘にスウォンたちはすっかり騙されていた。

やがて、緋龍城を訪れる頻度の減ったスウォンが、いつ振りかに足を踏み入れると、馴染み深いはずの光景は、変化していた。ハクが、ユタのそばに寄り添って立っていたのだ。ユタは相変わらず固く口を閉ざしたままだったが、それでも満更でもなさそうに見えた。
スウォンはあの時からハクにずっと羨望を抱いている。




*




「火の部族、カン・スジン将軍のご子息、カン・テジュン様がお会いしたいそうです。」

参謀のケイシュクに声を掛けられたのは、淡く色付いた庭が雲に覆われ始めた時だった。

「やあ、すみません〜。お待たせしましたテジュン殿。
今日はどうなされました?」

おどけて呼び出したテジュンの元へ向かえば、彼は只ならぬ空気をまとっていた。表情は消え失せ、目は据わっている。

「大事な…即位式前日に申し訳ありません。
貴方様に……どうしてもお渡ししたい物があって参上しました。」

そう言って手渡された包みを、ひらく。ぬくもりを与えてくれた暁の空の色の、赤いくせっ毛の髪。


「ヨナ姫が、亡くなられました。」


その言葉はどこまでも冷たくスウォンの胸に刺さった。


Prev Back Next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -