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03『キミ』は卒業します


スィンドルは艦内を歩く事を特に制限しなかった。
だからといって不必要にウロウロする事は無かったが、時折彼の方からルナを部屋から連れ出してくれた。


『…キミは叱る事がないですねぇ。』


コクピットで、小さなエネルゴンを口にしながらスィンドルはつまらなそうに呟く。
ルナが首を傾げると、彼は彼女の頭をやわく指でつついた。


『私の知るニンゲンってのは、もっと欲望に忠実で好き勝手をする生き物だった筈でしてねぇ。』
「…人間にも性格の違いはあります。」
『みたいですねぇ。いや、妙な真似をしたらちょっと銃で撃ってみようかなと思ってたんですけど。君はオイルじゃなくて、真っ赤な血が出るでしょう?あれ、綺麗ですよねぇ。』


放たれる言葉にぞっとしたが、スィンドルは至って常の表情だった。
彼にとってそれはちょっとした好奇心。それ以外の何ものでもないのだ。
スィンドルの手のひらがゆっくり床に付けられて、彼女に僅かな笑みが向けられる。
逆らえる筈もない。ルナは震えながらその掌の上に乗ると、カメラアイの間近まで持ち上げられた。


『……名前は?』
「え…」
『個体名ですよ。持ってますよねぇ?』


意外な彼の問いにルナは俄かに固まってしまう。名前などもう長い事呼ばれていない。聞かれる事もないと思っていた。


「ルナ、です。」
『ルナ…そうですか。』


人間は宇宙では本来なら生きていけない。だから、当然他の人間に出会うなんて事もなくて。だから個体のままで不便など無いはずで。だから、まさか。


『ルナ、今日は眺めがいい。私はここで休憩したいので準備して下さいねぇ。』
「は、はい!」


嬉しかった。戸惑う思いを押し殺して、彼女は通路へ走り出た。簡単に殺されてしまうかもしれないのに、たったその一言が、目の前の明るい灯になる。
締まる扉の音に溜め息を一つ。スィンドルは広がる数多の惑星をぼんやり見つめた。

遠ざかる足音が再び帰ってくるのを、楽しみに思う。何とも滑稽で素直な意思。

(柄じゃない、ですよねぇ…)

キミはいつ僕の名を呼んでくれますか。

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2012 02 17

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