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01私、購入されました


酸素の入ったポットに入れられて、ルナはいつも持ち歩かれていた。
いつ、死んでしまうのだろう。膝を抱えて、周りに散らばった理解出来ないアイテムをじっと見つめる。
ディセプティコンに攫われ、一時は完全に死を覚悟した。しかしどうした訳か、目を覚ました時彼女は透明な入れ物に入れられてまだ生きていた。

時折知らないまっ赤なカメラアイが近づいてきて、よく分からない機械音を発していた。
ここが地球なのかそうでないのかも分からない。悲嘆にくれる時期も過ぎ、物珍しく拾われてしまった不運な現実を、ルナはぼんやりと受け入れていた。


『ほぅ。これは珍しいですねぇ!地球人のペットですか。』


久しく、彼らの通信でない言葉を聞いた。顔を上げると、紫色の大きな瞳が至近距離まで近づいてきていて、彼女は思わず後ずさる。
逃げる場所など何処にもありはしないが、興味津々に覗き込んでくる目の前のディセプティコンらしき彼にルナはぶるりと身震いした。


『ちょうど地球に行く用があるんですよねぇ。このペット、私に売ってくれませんか?』


可愛いフォルムしてますよねぇ。大人しそうだし、頭も悪くなさそうだ。

ペラペラと軽い口調で、目の前のディセプティコンの言葉は止まる事なく注がれる。
金銭らしきものを片手で受け渡して、伸びてくる大きな手。反射的に狭い空間で、ルナはぎゅうと小さくなった。
縋るもののない視線が、こっそり今まで一緒だったディセプティコンを覗く。
真っ当な扱いはされないものの、食事になるものは定期的に与えられていたし乱暴を働かれる事はなかった。
これからはどうなってしまうのか。

面白そうに細められる紫の瞳に、悪い予感しかしなかった。


『さて、どうせ暫く二人きりなんです。わざわざ君の解る言葉で話してあげているんですから、何か話して欲しいんですけどねえ。』
「……じゃあ。何を、お話すれば?」


恐る恐る彼女が口を開けば、彼の歩みがぴたりと止まる。
反応を返した事が意外だったのか、不思議そうに彼の瞳は瞬きを繰り返し、やがて笑うように細められた。
宇宙船らしき部屋に乗りこんで、唐突にボトルの蓋が外される。
逆さにされて、ふわり、浮かぶ体。思わず喉を押さえたが、呼吸は出来た。


『知っていますよ。地球人は”酸素”がないと死ぬんでしょう。というわけで私、艦内の空気を少し弄りました。』


優しいですよねえ、私。うまく歩けない彼女を摘んで、彼は慣れた様子で歩き出す。やがて、雑然とした武器庫へ辿り着くと、ルナをひょいとその場へ下ろした。


『私は武器商人をしております。貴方は先程、私が購入しました。というわけで私の所有物である貴方にはこれから私の言う事を聞いてもらいますからねえ。』
「…はい。」
『結構。素直な方は嫌いではありません。私はスィンドル。覚えておいてくださいねえ。さあ、では早速働いていただきますよ。』


スィンドルの視線を追いかけて、ルナは辺りをぐるりと見渡す。
散らばった大小数多に及ぶ武器の数々。お世辞にもそれは綺麗とは言えない雑然とした状態で、彼女はスィンドルを振り返った。


「…私が、触っても?」
『勿論。整理、手入れを入念に。ああ、でもこれらを使って逃げ出そうとは考えない方がいいとは思いますけどねぇ。一応、私、ディセプティコンなんで命の保証は出来ません。ですよねぇ。』


スィンドルはごく普通に楽しげにそう零したが、彼女には笑えない冗談だった。ルナは小さく頷くと、ゆっくり前へ歩いて行く。

もうすぐ地球へ戻れるかもしれない。
また、皆に会えるかもしれない。
彼の発した言葉に、消え失せていた希望を心の隅に感じながら彼女は黙々と働き始めた。
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2012 02 04

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