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12甘い日々をいつの日か


結局、ここに戻ってきてしまった。
ルナはスィンドル艇でのコクピット内でコーヒーを啜りながら外を眺めた。宇宙空間で目にする惑星は地球で見るより美しいものもあれば、そうでないものもある。
あれから艇に戻ったスィンドルはパーツ集めに出なければと、すぐ様地球を出てしまった。外装は問題なさそうに見えたが、やはりダメージは大きかったらしい。
かつての生活と大きな変化はないが、変わったところといえばルナが過ごしやすいよう人間用の備品がいつの間にか運び込まれていた点。最低限のものではあったが、その気遣いは胸をあたたかくさせるものがあった。

(まさか、金属生命体とまた旅をする事になるなんて…)

それもどちらかと言えばスィンドルは敵側に重きを置くディセプティコンだ。
だが彼が迎えに来た時、恐怖はあったものの抵抗する気は起きなかった。むしろ奇妙な安心感が胸を満たし、それも彼女を混乱させている要因の一つだった。小さくため息を吐き出すと、タイミング良く入り口のハッチが開いた。


『おや、うかない顔ですよねぇ、ルナ。』
「…そんな事ない、ですけど」
『必要なものがあれば取り寄せます。またその内、地球に戻ってもいいですしねぇ。』


掌にルナを掬い上げて、スィンドルは柔らかく笑う。溶けてしまいそうに優しい声に密かに動揺する。あれからスィンドルは目に見えて優しくなった。いや、元々穏和な接し方ではあったが食べ物の好みを聞いたり調度品を置いたりしようとする事はなかった。とても嬉しい事ではあった。素直に感情に出すには厄介事に巻き込まれた回数が多すぎて懐疑心は拭えなかったが。


『…いいんですよ、ルナ。少しずつまた私を信じれば。』
「ぇ…」
『時間はあります。私にとって人間の生など瞬く間ですが、それでも確かに共に在る。』


未だ困惑の域を抜け出せないルナを見透かしたようにスィンドルは呟いて、苦笑を漏らす。その静かな視線に心臓が高鳴る。本当は胸のもやの理由は気づいている。種族が異なるスィンドルに心を寄せかけている。それも自覚してしまう程。

…馬鹿げている。
彼は金属生命体なのに。
そう思うと心が、ぎゅうと痛くなってルナは忘れるよう頭を振った。


『さぁ、今日も仕事はやま積みですからねぇ。あまり休憩している間はないですよ。』


ウインクをひとつ、笑ったスィンドルに頷いて、ルナも彼の傍で仕事を始めた。

(…キミは気付いていますかねぇ…)

凛としたルナの横顔をスィンドルはこっそりカメラアイで眺める。
手の届く位置で、彼女が居る。それは安心感だけでなく似合わない安らぎを彼に与えた。

そっと指先で頭を撫でると、ルナは丸い目をスィンドルに向ける。たったそれだけの事が酷く嬉しくて、彼は深いため息を漏らした。

(――…ずるいですよねぇ、本当に。)

ただ傍にいるだけでこんなにも幸せで思考は溶けた。
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2012 11 02

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