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05繋ぎ止めた奇跡


大事にはならなかったがディーノとの一件以来、きちんと家には帰るようにした。心配をかけた事が申し訳なかったし、結果を追及するあまり周りを顧みていなかった事をヒスイは反省していた。
仲間と、家族と、共に生きる時間を大切にする為に。その為に研究にも力を入れていたずなのに、いつの間にか忘れかけていた。


「アイアンハイド…」


コアの周りを覆う金属に触れる。彼女にも解るくらい生命反応は強くなり、日に日に形を変え大きくなるスパークに内に秘めた期待は膨らんだ。ラチェットはそんな彼女を横目にゆったりと優しい視線を向ける。
彼女の献身的な姿勢は出会った頃からそのまま。暖かい心は、人間にも金属生命体にも同じように向けられた。彼女自身気付いていないが当たり前のようで、数少ない人間だ。


『ボディはレノックスにGMCトップキックを一台頼んである。うまく同化出来れば、彼は我々の前に今一度姿を見せるだろう。』


その言葉にヒスイは跳ねるよう顔をあげた。
動揺する彼女にラチェットは微かに笑むと、小さく肯定の意味を込めて頷く。熱く言い様のない思いがヒスイは喉の奥からせり上がる。


『明日、オプティマスから皆に伝えてもらおう。…すまなかった、事実を長い間隠させて。』
「いいえ、私は別に…。…サイドスワイプが喜びます。」


高揚する気持ちを抑えて、彼女は笑った。

翌日、ワシントン基地の格納庫でオプティマスの口からアイアンハイドに関するスパークの件が語られた。ヒスイの希望で彼女が携わっていたことは伏せられ、仲間の軍人達に混じって彼の言葉を聞いていた。
ふと、視線を感じてオプティマスから視線をずらす。目があったのは赤いオートボット。ディーノは黙ってオプティマスではなく人間の中にいる彼女を見つめていた。

オプティマスの手からアイアンハイドのスパークが、トップキックに乗せられる。輝き出す青い光。その眩さと巻き起こる風に皆が刹那顔を伏せる。
変形する金属音。久しくそこに現れた漆黒のボディに最初に飛び付いたのはやはりサイドスワイプだった。
歓声が上がり、帰ってきたアイアンハイドの周りに人だかりが出来る。戸惑いながらもアイアンハイドは嬉しそうにそれに答え、冷却水を溢すサイドスワイプを叱咤していた。
満たされた気持ち。ヒスイはその輪の中に飛び込んで行く事はしなかったが、幸せな気持ちでその光景を見つめていた。


「いいのか、行かなくて。」


いつの間にか隣に来ていたディーノに顔を上げる。ふわりと笑うと、ヒスイはぎこちなく頭を抱えアイアンハイドを見つめた。


「…隠してましたから、私。あなたにも。」
『……』
「いいんです、私、今凄く嬉しいから。皆で笑えるのが、一番ですから。」


ディーノは呆れたように少し大袈裟に肩を竦めた。
しかし大切そうに手を伸ばし、ヒスイの頭を指でそっと撫でる。馴れない手つきに彼女は可笑しそうにくすりと笑った。


「今日は少し早く一緒に帰りましょう。」


大きな小指を小さな掌が握って。そうして二人は指切りの代わりに手を繋いだ。
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2013 04 21

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