×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



34対極の正義


つい先日、地球の夕日を共に眺めた。あの時久しく見た師の背中は暖かく、尊大で、このような戦いが起こる事などオプティマスは露ほども考えられなかった。
母星の時と同じ様弱き者達を共に守り、導いて行くものだと信じて疑わなかった。


『故郷を取り戻してやった。我らの星を。それでも貴様は人間を選ぶのか。』


センチネル・プライムの怒りに満ちた声が街の破壊音と共に響く。見上げればそこにある母星サイバトロン。しかし手の届く所にある故郷を見上げる事なくオプティマスは迷いの無い様子でセンチネルに剣を向けた。
目前の元師も、誤った形で空に浮かぶサイバトロンも彼を傷つける対象でしかなかった。


『誰もが自由であるべきだと教えたのは他でもない貴方だ。』


彼の目が悲しく揺れる。センチネルは果たしてそれに気付いただろうか。ヒスイはその戦いからそっと視線を横に移した。
地上に落ちた柱はまだその赤い輝きを失ってはいない。皆がそちらへ向かって前進し始めたその時、空から雨のような砲弾が降り注いだ。
戦艦からの激しい弾音に思わず耳を塞ぐ。伏していく兵士達を遠目に、心臓が握りつけられたような痛みを感じた。


『ディセプティコン達よ、オプティマスを伐て!!柱をもう一度起動させよ!!』


これまでとは比較にならない程敵の援軍が来る。オートボットと軍の兵士達がオプティマスを援護するがとても火力が足りなかった。

――行かなければ。
拳を握り締めたヒスイの肩をサムがそっと触れる。目が合うとサムは強い眼で頷き背中を叩いた。


「…行かなきゃ、僕達も」
「サム、それは」
「僕達だって出来る事がある。僕は行く!」


言葉の出ないヒスイを残して、サムは一目散に走り出す。一瞬、カーリーを振り返ると不安そうな瞳が恋人を見つめていた。
一緒には戦えない、待つべき普通の女の子。サムが無事に待っていて欲しい女の子。それを認識すると、足が彼を追い掛けて走り出した。サムを止める事をせず、隣を共に走る。
出来る事を、自分の気持ちのままに。愚直過ぎるサムの行動だが、彼の意志を、その存在を守りたいと思った。
戦火の中を走る。敵はオプティマスとオートボット達に気取られ、幸運にも人間には手薄だった。
二人が懸命に柱に近づいたその時、黒い影が瓦礫の上に一つ。上等なスーツを身に纏ったディランがゆっくりとこちらへ振り返った。向けられる銃口。口を噤むヒスイとは対称的にサムは彼に食ってかかった。


「ディラン!起動させちゃ駄目だ!」
「…もう遅い。今更もう後戻りなど出来ないんだ。」


スイッチが押される。目が眩む程の光が立ちのぼり、再びサイバトロンが生き物のように鼓動を始めた。

星が、落ちてくる。
ディランの気が緩んだ僅かな隙をついてヒスイは、彼に飛びかかった。銃を叩き落とす事には成功するが、先の戦闘での傷が開く。力が緩んだ際に蹴り飛ばされヒスイは重力のまま転がり落ちた。


「、う」
「…お前も利口じゃないな。サウンドウェーブの下につけば良かったものを。」


臥したヒスイを慌ててサムが抱き起こすが、彼女はすぐに体制を整えられない。
傍の鉄棒を握り締めてサムは怒りのまま立ち上がる。銃を拾い上げたディランがサムを狙い歪んだ笑みを浮かべた。


「何だ、それで私と戦う気か。…ヒーロー気取りの偽善者共が。だが、覚えておけ。英雄は私だ!人間は私の配下となって、ディセプティコンの下で生き延びる!」


発砲音。ヒスイは血の気が引く思いだったが撃ち慣れない弾道は奇跡的に逸れた。二人の間が詰まる。感情のままサムはディランを殴りつけた。後ろに飛んだ彼の体は柱に接触し、高エネルギーに当てられたディランは声にならない悲鳴を上げる。
息のあがったまま、サムは彼から目を逸らさずじっと見据えた。


「ディラン…僕はただのメッセンジャーだ。」


青年は自分の非力さを理解していた。故に強かった。
近づいてきたブラスターによる砲撃がディランごと柱を撃ち砕く。間に合ったオートボット達に心から安堵し、ヒスイはサムの隣に立った。表情に清々しさはない。当然だ。彼は軍人でもなく、戦士でもない。普通の青年なのだ。
青空に溶けていく巨大な金属の星を見つめながら、ヒスイは涙をこらえた。
"彼"はこれで自分の星には帰れない。それが無性に悲しくて、喜ばしい筈の勝利が欠片も嬉しく思えなかった。
―――――――――
2013 03 15

[ 61/85 ]

[*prev] [next#]