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09midnight show


深夜、非常灯の灯る基地内からヒスイは空に浮かぶ月を見上げた。
黄色く輝く丸い光はいつもと変わらないように見える。捧げる祈りは、今、此処に居ない二体のオートボットへ。


『キミがここに居るなら安心だ。私達のホームにね。』


大丈夫、ほんの数日で戻って来る。
月への出立前、嬉しい言葉を彼女に贈ってくれたのはラチェットだった。
緊迫したなかでも相変わらず彼は穏やかで、彼女は自然とつられるように笑みを零した。

――何事もなく無事に帰ってきて欲しい。

珈琲を片手に静かに物思いに耽っていると、不意に館内のアラームが彼女の耳に飛び込んでくる。
訝しげに眉を寄せて辺りを見回すと、それまでスリープモードにあったバンブルビーが急いたようトランスフォームして格納庫を飛び出して行った。


「…バンブルビー?」
『客が来たようだな。』


落としていたフェラーリのフロントライトをパッシングさせて、呟いたのはディーノ。
嫌そうなその声を聞いて彼女はモニタールームへ足を向けた。画面に映し出されていたのは自分よりも若干幼く見える青年と女性の二人組。
ゲート入口で車を兵士達が囲み…、そして、中から引っ張り出される彼らの中に見知った顔をヒスイは捉えた。


「…ホイーリー!!」


生きていた事にほっとする。元気そうだ。
人づてに、軍を出て街で暮らしていると聞いていたが、こうして目の当たりにすると自然と頬が安堵に緩んだ。


「貴方がいるって事は、バンブルビーのパートナーが…」


サム=ウィトウィッキー。
地球を二度救う事に関わった数少ない民間人だ。
フーバーダムに同行した際、一度見たことがあった。


「…何の騒ぎだ?」
「、レノックス大佐…」


頭を軽く掻きながら、欠伸をかみ殺してレノックスも彼女と同じ部屋に入ってくる。
映し出されたサムの顔を見ると、俄かに表情が真剣なものに変わり、通信回線を自ら開いた。
ヒスイは黙ってレノックスが入館を許可する発言をするのを横目で見やる。自分ではどんな顔をしていたのか分からない。が、ヒスイの視線に気づいたレノックスは、一つウインクをすると彼女の肩を軽く叩いた。


「もうすぐオプティマス達が帰ってくる。お前は格納庫のスペースを整えておいてくれ。」
「!…了解しました。」


オプティマス達が帰ってくる。その一言に安堵すると同時に、墜落船の積み荷を持ち帰ってくる事実に緊張が走った。格納庫へ戻ると、フロントでディーノが彼女をやんわり突く。


『ガキの喚く声が煩くて仕方ねェ。中に入れんな。』
「それは出来ません。彼はオプティマスの友人です。」


苦笑を漏らして、彼女は静かにディーノを見つめた。ディーノはその答えに不満そうに排気を漏らしたが、それ以上文句を言おうとはしなかった。


『…アークからセンチネル・プライムを回収したらしい。前指揮官がどんなもんか見ものだな。』
「?ディーノさんは知らないんですか?」
『直接的な関わりは無かった…だが、名前と功績だけは特別有名なオートボットなのさ。』


ゆるゆると彼女の隣を移動しながらディーノは少し懐かしそうに昔を話す。
お互い知らない過去はまだまだある。それでもこうして自然に傍に居てそれを話せるようになった事は、とても暖かい気持ちになれた。


「…ディーノさん。また…聞かせて下さいね。」
『何?』


私、時間の許す限り、貴方の事をもっと理解したいんです。

真っ直ぐな瞳が、ディーノを見つめる。言葉の代わりに与えられたのは沈黙。彼なりの譲歩した良い返答に彼女は黙って小さく笑った。
―――――――――
2012 02 11

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