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08色褪せた赤い掌


オプティマスとの話し合いが落ちついた後、ヒスイはメアリングに呼ばれて館内にある彼女のデスクへ通された。
控えめにノックをしてから静かに身を滑らせれば、座るよう仕草で促される。


「聞いたわ。貴女、ディセプティコンからコンタクトがあったそうね。」
「はい。」
「過去にも一度ディセプティコンに襲われている。…解らないわね、彼らが殺し損ねる程タフには見えない。技術者として優れているようだけれど他にだって優秀な人間は沢山いる。何故貴女に執着するのかしら。」


値踏みするような視線とさらりと注がれる辛辣な言葉。当然いい気はする筈もないがヒスイは苦笑して曖昧に首を横に振るに留まった。
言い返す事は出来るが、特に必要のない事だ。実際、自分がそんなに凄い人間だとは思わない。レノックスのように人の上に立つ程高潔でも優れた人物でもない。
メアリングは暫くそんな彼女を見つめていたが、やがて一枚の紙をデスクの上に取り出した。


「反論しないのね。」
「必要であればすべき事はします。ですが、私の資料は既に目を通されているようなので。そのまま受け取っていただいて結構です。」
「紙きれだけじゃ伝わらない事があるからこうして時間を割いているのよ。…まあ、いいわ。ここにサインなさい。」


目の前に置かれた紙面にヒスイは視線を落とす。内容は誓約書のようなもので、このワシントン基地に従属する事が書かれていた。


「長官…これは」
「オートボットの配置を不用意に分けたくはないの。前の基地で携わっていたシステムの構築は最終段階まで来ているでしょう。あとは他のプログラマーに任せる事にしたわ。
―――NESTに戻りなさい。以上よ。」


メアリングはそれだけ告げると散らばった資料を纏めてせわしなく立ち上がる。
ヒスイも慌てて立ち上がり敬礼すると、思い出したようにメアリングがはたと動きを一瞬止めた。


「ああ、そう言えば。貴女、まだ―……」

***

格納庫へ戻ると、出入り口の近くに居たディーノがマフラーを一つ吹かして合図した。
近づいて、ため息を一つ零せば、


『何だよ、この基地に来るのが嫌なのか?』
「…!聞いてたの?」


ディーノの発言に、ヒスイは目を丸くする。まるで今まで隣に居たような物言いで彼は平然と言葉を続けた。


『聞こうと思えば声を拾える範囲にいたからな。お前にとってはいい話じゃないのか?』
「…ディーノさんにとっては?」


静かな瞳が、ディーノを見つめる。
質問で返されると思わなかった彼は少し押し黙ったが、軽い様子で答えを返した。


『忘れたか?俺はディセプティコンを殺しにこの星へ来たんだ。戦いが在る場所へ俺は行く。』
「…そう。そう、でしたね。」


薄くはにかんだ彼女はどこか寂しげな表情を浮かべ、ゆっくりと彼の隣を通り過ぎた。
妙に悪い事をした気分になってディーノはヒスイを振り返るが、彼女は既に他のオートボットに囲まれていた。
小さな背中からは感情を読み取れないが、サイドスワイプが楽しそうに笑っていたから、きっと笑顔なのだろうと思った。
メアリングの言葉で途切れた彼女の声が引っかかったが、敢えて口にしなかった。

《貴女、もう銃は撃てるの?》

―――――――――
2012 01 29

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