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01ルビーアイの来訪


キーボードを叩く指を一旦止める。のびをすると、僅かにしなる音を響かせる椅子。乾いた目を少しだけこすってデスクの横に置いたコーヒーに手を伸ばし、ヒスイはそれを喉に通した。
窓から見えるパーキングに視線を投げる。自らの駐車スペースに空いた空白。
一週間前、その場所を定位置にしている赤いフェラーリは遠征の為この場所を離れた。


『…今回、すぐには帰れねェ。』


基地にあるエネルゴン探知機を見つめて、ディーノは一言そう零した。
離れる事は不安だったが、心配してくれた嬉しさの方が大きかった。思わずそれに笑顔になると、対して彼は不機嫌そうに排気を漏らしてそのまま出立しようとした。
違う、嬉しかったわけじゃない。そんなわけじゃなくて。


「ディーノさん、…これを。」


彼のバックミラーにルビー色の石細工をかけて、ヒスイはボディにそっと触れる。ディーノは揺れる赤い石に何も言わなかったが、外す事もしなかった。

――今度戻るのはいつだろう。
走り去る彼を見つめながら、彼女はただ黙ってディーノの無事を祈った。
人間達の紛争を無くす為、政府、軍に助力しているオートボット達。今回は違法な核施設を停止させに行くのだとディーノは言っていた。
静かな部署に移り、ただ見送る側になった今、前線に出て行く彼らが時折酷く遠く感じる。ヒスイの中で風化していくかつての戦いの記憶。爪痕が消えるわけはない。だが、確実に脳裏からは薄れて…それが良い事なのか悪い事なのか。
彼女はカレンダーを眺めて、深い溜め息をついた。

ふと、風が頬を撫でて彼女は現実に引き戻される。いつの間にか開いていた窓。散らばりかけた資料を押さえて閉めようと立ち上がると微かな金属音が耳を掠めた。
視界に飛び込んでくる銀色の羽。二翼は室内に転がり込むとばさりと音を立て器用に閉じた。


『やァ。こんにちは、お嬢さん?』
「、だ、誰!?」


デスクの上に、無造作に乗った生き物は恭しく頭を下げヒスイに自らの牙を自慢げに見せる。
不気味な光を宿した赤い瞳。
彼女がそれに銃を取って体を強張らせると、彼はケタケタと楽しそうに笑い金属の羽を大きく広げた。


『ハッ、そうビビるなよ。何もしやしない。俺はただの"元"ディセプティコンだ。』
「…も、と?」
『ホイーリー。知ってんだろ?ヤツとは古い知り合いでね。あいつが言うお気に入りのオトモダチに会いに来てみたのさ。』


レーザービークだ。
まるで人間が握手を求めるように、レーザービークはヒスイの前に尻尾を突き出す。
戸惑いながらも彼女がそれにそっと触れると、彼は長い首を伸ばしてヒスイの手の甲に口づけた。


『オマエの赤い護衛がいない時、時々様子を見に来てやるよ。一人ぼっちじゃ不安ダロ?』


レーザービークの瞳の奥に潜む思惑――それを彼女はまだ知る由もなく、ただ曖昧に彼の言葉に頷いた。

(ご主人様。ご主人様。
さァ、この人間にはどんな悪夢を見せてやりましょう。)

―――――――――
2011 12 23

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